フォロワー18万人・TikTokクリエイター「ぬん 漫画紹介」が語る、「TikTokで夢を叶える方法」

文芸・カルチャー

更新日:2021/12/24

ぬんさん

 ショートムービープラットフォーム・TikTokは今、マンガや小説などの書籍の魅力を伝えるツールとして、面白い本を知りたい人だけでなく、本を売りたい出版社から熱い視線を浴びている。数十秒の短い動画で、ユーザーの「読みたい!」をかき立てるマンガ紹介クリエイターのひとりが、「ぬん 漫画紹介」だ。子どもの頃からマンガに魅了されてきたという点は他の紹介クリエイターたちと共有しているものの、興味深いのが、ぬん氏がTikTokを始めたその理由だ。自身の考え方に影響を与えた書籍やTikTokを始めるまでの経緯、そしてマンガ業界の今に対する考察まで、たっぷり話を聞いた。

(取材・文=川辺美希)

ぬん氏が選んだ、「自身の考え方に影響を与えた書籍」5選

こちら葛飾区亀有公園前派出所

①『こちら葛飾区亀有公園前派出所』秋本治 著
小学生の頃、コンビニに置いてある300円で売っているリミックス本にて初めて漫画を読んだ。そこから自分の漫画人生がスタート。

ぼくらの

②『ぼくらの』鬼頭莫宏 著
初めて死について考えたのがこの作品。当時小学6年生の頃は到底理解できていなかったが、年を重ね読む度に味が変わって楽しめるのは鬼頭莫宏の魅力だと思う。

ハイスコアガール

③『ハイスコアガール』押切蓮介 著
ラブコメにハマらない自分を唯一夢中にさせたのがこの作品。ハルオの青春は自分の青春でもある。圧倒的小春推し。

GANTZ

④『GANTZ』奥浩哉 著
1番好きな作品を挙げろと言われたらコレ。SFの中にバトルをここまで組み込んだ作品は他にはない。自分なら100点取ってレイカを蘇生する。

SHIORI EXPERIENCE ジミなわたしとヘンなおじさん

⑤『SHIORI EXPERIENCE ジミなわたしとヘンなおじさんン』長田悠幸(作画)、町田一八(原作) 著
いま連載されている中で、1番熱い作品。もっと売れてほしい。この作品はまだあまり知られてないんだけども…新刊発売毎に前巻の熱量を超えてくる漫画は、他に絶対ない! 読んでいないなら必読!

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出版社の本社前でひとりで泣いた就活時代

――TikTokを始めたきっかけから教えてください。

ぬん:出版関係の仕事をしたいという夢に近づくために、TikTokを始めました。大学生のときに就活で出版社を受けたものの、全滅してしまって。違う業界での就職が決まったんですけど、普通の道で戦うのではなくて、別の方法で出版業界につながる実績を作ろうと思って、就活が終わった2020年の夏頃にSNSを始めたんです。SNSを通じて、あまり知られていない作品の魅力を伝えたい、という思いもありました。僕自身、小学校でマンガに出会ってからずっと読んできましたけど、知られていない面白いマンガがいっぱいあるんですよ。売れ行きによっては、1巻や2巻、3巻で打ち切りになってしまうこともあって……今、いい作品の認知が広がらないという問題があると思うんですね。そういう作品の魅力を伝えるために、TikTokは相性がいいのでは、という思いもありました。

――『こちら葛飾区亀有公園前派出所』をきっかけに、マンガ人生がスタートしたそうですね。小学校低学年くらいの頃ですか?

ぬん:小2のときに、コンビニで売っている300円くらいのリミックス本で『こち亀』に出会って、「マンガってめちゃくちゃ面白いな」って思ったんです。そこから『(週刊少年)ジャンプ』を読んで、『マガジン』『サンデー』『ヤングジャンプ』『ヤングマガジン』と広がって。小6くらいには青年誌に手をつけ、中学校のときには『アフタヌーン』や、KADOKAWAさんやスクウェア・エニックスさんの雑誌も読んでいて、雑誌連載作品はほぼ全部、読んでいました。そこから昔の青年誌系の中古の作品に行って……高校のときはほぼすべてのジャンルのマンガを読んでいた感じです。バイトで稼いだお金も全部、マンガにつぎ込む生活をしていました。

――中学で『アフタヌーン』とは早熟ですね! もっといろいろ読みたい、知りたい気持ちで、どんどん広がっていったんですか?

ぬん:自分は何事ものめり込んでしまう性格なので、そのひとつが自分にとってマンガだったんですよね。特にマンガは、小学校2年生からずっと追い続けてきて、今でもマンガへの思いは尽きないです。極論としてたどり着いたのが、「自分で漫画を作りたい」という目標だったんです。でも、自分は表に出るタイプではないので、裏方でマンガを作ったり、売ったりする仕事がしたくて。TikTokも極力、顔を出したくないスタンスでやっているので、なるべく早く裏方に回りたいです(笑)。

――裏方でマンガを作る仕事がしたくて、出版社での編集の仕事を志したわけですね。

ぬん:そうです。小学校の頃から出版社で働きたいと思ってました。ただ、高校受験のとき体調を崩したこともあって、希望する進路に進めなくて。東京の大学に行きたかったんですけど、それもかなわず、地元の大学に入ったんですね。それをすごく後悔しているんです。東京の大学に進学して、出版社でアルバイトをして出版に携わって、出版社への就活をするべきだったって。大学時代に就活で全滅したとき、本当に後悔して、集英社や小学館の前で、ひとりで悔しくて泣きました。「無理だったか~」って(笑)。

自分にとって、夢を叶える方法がTikTokだった

――具体的に、TikTokの活動をどのように出版社でのお仕事につなげていきたいと思っていますか?

ぬん:出版社の方って、自分が担当する漫画を立ち上げるときに、編集もしないといけないし認知も広げなければいけなくて。編集者が自分でSNSを使ってプロモーションをしないといけない時代に来ていると思うんですね。だからこそ、編集をやるとしたら、自分で自分の作品を売る方法として何が一番強いのかなと考えたんです。そこで、自分がコンテンツとなって、SNSのフォロワー数を持っておくことがこの先の武器になるだろうと。それが今、形になってきているという認識はありますね。

――出版業界への課題意識や作品の認知を広げる場所を持つ必要性など、すごく分析が進んでいると思うんですが、そういう考察ってどう深めていったんですか?

ぬん:完全に独学です。目的から逆算して、達成するためには何が近道なのかをずっと考えてきて。就活をするまでは、出版社に入りたい、編集をやりたい、という気持ちだけ強くて、そこに対して何もコミットをしてこなかったので、案の定撃沈したんですよね。でも、諦めなかった。今から何をすればいいのかって考えたとき、その答えがSNSでした。そこから自分で学習して、こういう動画が伸びる、こうしたらフォロワーが増えるとか、動画をどう展開すればSNSのトレンドに上がって、マンガが売れるのか……といろいろ考えて、全部実践してきました。

――就活と別の角度から目標へつながるベストな方法を探した結果が、今の形だったんですね。

ぬん:今、僕はこうやって夢にいい形で近づきつつありますけど、目的を達成する方法は、企業に応募するだけじゃないと思うんですよ。映画を作りたかったら、その道に行くいろいろなルートがあると思いますし、服を売りたいんだったら、アパレル企業に入るだけじゃなくて、自分でブランドを立ち上げることもできるし、PRの方法だっていろいろあると思います。それが自分にとっては、TikTokだったんです。TikTokで歌手になることも目指せるし、商品を売ることだってできる。夢があって諦めずに行動さえすれば、実現できると今は思っています。

――TikTokクリエイターとしての活動を始めて、紹介したマンガの売上が伸びるなど、業界に貢献できたと最初に感じたのはどの作品でしたか?

ぬん:『桃源暗鬼』という作品が最初かなと思います。自分の動画は消してしまったんですけど、1巻が出たタイミングで購入して、動画で紹介したんですね。その後、もつもつさん(TikTokクリエイター・もつもつ@漫画紹介のひと)とはなさん(同・書店員はなのおふたりも取り上げていて、どんどん広がっていった経緯があります。はなさんやもつもつさんが僕の購入ツイートやオススメ作品を見て、次の日にそのマンガを買って読んでくれたりして紹介してくださった際には、自分の動画に限らず、そういう連鎖的な広がりでも貢献できているのかなって感じています。

世に出ているマンガで、「つまらない作品」はない

――ぬんさんが、純粋に一番好きなマンガのジャンルは何ですか?

ぬん:SFが好きですね。『GANTZ』も好きですし、鬼頭莫宏先生の『ぼくらの』っていう作品が本当に好きです。小6くらいのときに初めて読んだんですけど、今読むと当時とは感じ方が違うんですよね。小・中学生くらいの、生と死に対してまだ何もわからない少年少女がロボットに乗って戦うっていう、壊れそうで壊れないギリギリの線に魅力を感じます。『惡の華』とか『少年のアビス』とか、リアリティが感じられる作品も好きです。人間味があるドラマ作品もよく読みますね。ホラーオムニバスの『僕が死ぬだけの百物語』とか、『フォビア』のような作品も好きです。

――とはいえ、王道マンガも好きなんですよね。

ぬん:はい。『ジャンプ』も『サンデー』も『マガジン』もずっと買っていますし、少年マンガの中では『金色のガッシュ!!』が好きで、いつ読んでも泣いてしまいます。『ワンピース』も毎週、そうきたか!っていう驚きがあるし、『ヒロアカ(僕のヒーローアカデミア)』も好きですね。でも、一番好きな少年マンガは『ドラゴンボール』かもしれないです。『ドラゴンボール』の濃密さってすごいんですよね。セリフがなくても成立するっていう、バトルシーンの理想形を描いているのが『ドラゴンボール』だと思います。

――作品紹介動画での発信の仕方で、気を付けていることや、貫いていることはありますか?

ぬん:作品を悪くは言わないことは決めています。世に出ているマンガで「つまらない作品」ってないんですよ。いろんな人ががんばった結果、世に出ている作品ですし、どのマンガも必ずファンがいるから連載されているので。もちろん、「合う・合わない」はあると思います。でも、自分がつまらないと思っても誰かには必ず響いているわけで、どう思うかは価値観次第なんですよね。僕は、自分の人生観を変える作品とどれだけ出会えるかに価値があると思っていて。だから自分が、特別マンガに詳しいという気持ちもないんです。自分は今まで人生観を変える作品と人より多く出会えているだけだと思っていて。自分は人より多くマンガを読んでいるから、僕が選ぶ作品をどうしても読め、なんていう感覚もないです。

――ダ・ヴィンチニュースの読者には、仕事や家事育児をがんばっている大人世代も多くいらっしゃいますが、そういう世代に響きそうなマンガはありますか?

ぬん:『SHIORI EXPERIENCE(ジミなわたしとヘンなおじさん)』ですね。めちゃくちゃ面白いんですよ。連載中のマンガで、前の巻より次の巻が毎回上回っている面白い作品は、自分は『SHIORI EXPERIENCE』だけだと思っているんです。最近、話にひと区切りがついて、この巻を次の巻は超えないだろうって思っていたんですけど、最新刊を読んだら、前の巻をはるかに超えてきたんですよね。いや~、驚かされましたね(笑)。編集者さんの中にも「一番面白いと思う」って言う方がかなりいるんですけど、表紙がとっつきにく感じがちょっとあって、ジミヘンのことをあまり知らない人も多いと思うんですね。そういった先入観がない状態で、いち音楽マンガとして楽しんでもらいたいです。

――具体的にどんな点が、大人の心を動かすと思いますか?

ぬん:自分もなんですけど、大人になると、夢に対して現実味がなくなってくるんですよね。仕事ってつまらないなって思っても、なんだかんだ適応してしまって。『シオエク』はそんな人の夢を追う心をくすぐるというか、自分も何かやってみようと思える作品です。実は『シオエク』は、僕がTikTokを始めたり、もう一度、マンガの世界を志そうって思ったきっかけでもあるんです。

――近い将来、マンガ業界や出版業界にこんな影響を与えたいなど、考えているビジョンはありますか?

ぬん:はなさんもおっしゃっていますけど、まず「TikTok漫画大賞」はやりたいですね。もうひとつ思うのは――コロナ禍って、マンガ業界にとっては追い風になった部分もあると思っています。『鬼滅の刃』や『呪術廻戦』『東京卍リベンジャーズ』が爆発的にヒットして、電子コミック媒体のユーザーも増えて、マンガの認知が広がって。今まで知られていなかったマンガが、人気作の上位にあがってきたりもしたんですよ。逆に、コロナが収束していっれくれたら、そのブームは下火になってしまうかもしれない。だからこそ、TikTokや他のSNSで世に知られていないマンガを紹介していくことで、ブームを少しずつ上に向けていけたらなって思ってます。これからも何かしらの形で、出版業界に貢献していきたいですね。

ぬん 漫画紹介さんTikTok
https://www.tiktok.com/@nun__nun

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