ドキドキ展開の後のラブラブもたまらない! “まだまだ見守りたい欲”を満たす、ラブコメコミック3選

マンガ

公開日:2023/7/12

※本記事は各作品の内容・ネタバレを含みます。ご了承の上、お読みください。

 思いがだんだんとふくらんでいき、すったもんだを繰り返しながらもついに告白してお互いの気持ちを確かめ合う――。多くの恋愛ストーリーは、この展開を経てクライマックスを迎える。「もうお前ら付き合っちゃえよ!」「“両片思い”にやきもきする!」といった読み手である私たちの思いも報われる瞬間だ。

 しかし、なかには相思相愛をはっきりさせたところがゴールではない作品もある。それは「付き合うまでも幸せだったが、付き合ってからはさらに幸せ」という物語。私個人としては最高だ。ということで、本稿はドキドキの後のラブラブな展開も楽しめるおすすめラブコメコミックを3作品紹介する。

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①思春期女子の“もんもん”から始まる恋。『あらくれお嬢様はもんもんしている』

あらくれお嬢様はもんもんしている
あらくれお嬢様はもんもんしている』(木下由一/講談社)

 学園の女王様・口無椿は、美人でスタイル抜群。特に女生徒から“王子”と呼ばれて慕われている。そんな椿は理事長の孫娘という立場を利用し、 気に入らない男子生徒を退学に追い込んでいた。そんななかで彼女の次なるターゲットになったのは、優等生だがスーパー真面目であまりにも厳しすぎる風紀委員・起立匡史。彼女は自慢のルックスを利用して、彼にいわゆるハニートラップをしかける。しかしカタブツの彼には一切通用しない(ように見えた)。相手にされずにいると椿はエスカレート。そのうちに彼女のなかで妄想が暴走し“もんもん”するようになってしまう……。

 最初はちょっとエッチな描写もあるショートコメディ。ただ読み進めていくにつれて印象が変わる。天然でウブで“もんもん”している椿(と起立も)の恋が、じっくりと描かれるようになるのだ。

 好きな女の子をいじめる男子小学生のようにふるまう椿。彼女が思春期の性欲に目覚めるという成長(?)を見せ、そこから本気の恋へ落ちていく。この流れは笑えるし、しっかりドキドキキュンキュンもさせられ、とにかくふたりが気になってくる。そしていよいよ椿が素直に自分の気持ちを口にし、起立と気持ちを通じ合わせる場面では、読んできた誰もがきっとカタルシスを感じるはずだ。これでカップルになって終わりなのか、と少し悲しくなったが、作者の木下由一氏が「まだ続く」とSNSで公言しており、相思相愛を確かめ合ったふたりがこれからどうなっていくのか、期待しかない状況である。

②0.01mmずつ進展する大人のラブコメ『あそこではたらくムスブさん』

あそこではたらくムスブさん
あそこではたらくムスブさん』(モリタイシ/小学館)

『ラジエーションハウス』(集英社)のモリタイシ氏が描く社会人ラブコメ。こちらは恋の進展が0.01mmという薄さ……いや、遅さがラブコメコミック界ナンバー1かもしれない。

 湘南ゴム工業株式会社の営業担当・砂上吾郎が主人公。彼が1年以上も密かに想いを寄せるのは、総合開発部の近藤結(こんどうむすぶ)だ。なお彼女が日夜研究しているのはコンドーム。なんとか結との距離を縮めたい砂上だが、仕事上で自社商品について話すときにナチュラルセクハラを連発してしまう。コンドームについて真面目な顔で語る結と、どぎまぎして変なことを言ってしまう砂上の笑えるやり取りが続くが、仕事一筋で恋愛に興味がなさそうだった結も徐々に意識するようになる。

 やがて砂上は、自分の気持ちをはっきりと伝える。そこは「さすが大人の男!」というところだが、恋愛経験が乏しい結は「好き」という気持ちを理解できず、明確な返事ができない……。社会人の恋愛とは思えないほどピュアで、キュンキュンしてしまう展開が丁寧に描かれていくのだ。しかし、ふたりにもそのときはやって来る。本当にゆっくり関係を深めてきた砂上と結は、たどたどしいやり取りを経て付き合うことになるのだ。個人的に第47話と48話はふたりの好きがあふれる神回だと思う。

 ここから“大人なのに純情すぎる”彼氏彼女ターンが始まる。2023年7月時点で始まって数話とはいえ、このカップルはまだまだ楽しませてくれそうだ。なにせ0.01mmずつ進展するラブコメなのだから。

③中二病ボーイ・ミーツ・ド天然ガールの格差ラブコメ『僕の心のヤバイやつ』

僕の心のヤバイやつ
僕の心のヤバイやつ』(桜井のりお/秋田書店)

 いわゆる陰キャである市川京太郎が、中学校の同じクラスの美少女で雑誌モデルの山田杏奈と絡むようになる。やがて市川が彼女を“好き”と意識するようになり、山田もまた市川が気になるようで……。

 本作の魅力は丁寧さだろう。思春期の少年特有の痛さをもつ京太郎と、かわいさとポンコツさを兼ね備えた山田に笑わされながらも、ふたりの気持ちが変化していく様が丁寧に描かれており、読者は関係の進展をじっくりと確かめられるのだ。

 そしてもうひとつの魅力に強い説得力を挙げたい。物語は京太郎の目線で進み、山田の心理はほとんど描かれない。だが表情と言動から、山田が市川に惹かれていくのが読んでいけばはっきり分かるようになっている。

 第8巻でついにふたりが気持ちを確かめ合ったとき、笑い泣きするファンは多かったことだろう。読者である私たちにも多くの積み重ねがあったからだ。付き合うことになっても、丁寧で説得力のある物語は続く。「どんな風に付き合うのか」「友達には交際を伝えるのか」「し、進展は……」もはや何が描かれても幸せしかないのだが、読みたいものがそこにあるのだ。

 好きな漫画がクライマックスを迎えると、私はまるで作品世界に置いていかれるようなひどく寂しい気持ちになる(もちろんラブコメに限らずだが)。恋が実り、ハッピーエンドを迎えると分かっていても、作品によっては「付き合ったあとも読みたい! 幸せなふたりをもっと見守らせてほしい!」という思いが止まらないことがあるのだ。今、このめちゃめちゃ身勝手な“見守りたい欲”を満たしてくれる3作品が、できるだけ長く続くことを切に願っている。

文=古林恭

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