「性別がない」ってどういうこと? 漫画で学ぶLGBTまとめ

マンガ

更新日:2018/10/1

 LGBTという言葉が定着してきている。L=レズビアン、G=ゲイ、B=バイセクシャル、T=トランスジェンダーという言葉の定義は知っていても、具体的な個人に触れる機会がなかったという人も多いのではないだろうか。「どう生きて、誰を愛するか」というテーマは性の範囲にとどまらず普遍的なもの。まずはマンガで理解を深めていきたい。

■IS(インターセクシャル)は2000人にひとり。 “私たち”を知ってください

 IS(インターセクシャル)という言葉を聞いたことはあるだろうか。生まれついての身体特徴が、男女どちらにも分類できない半陰陽の人のことだ。幼少時に、社会的に(多くは親が)選択した性別と、成長してからの性自認とのギャップで苦しむ人も少なくない。

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『IS(アイエス)』(六花チヨ/講談社)の主人公、OLのヒロミは、ある日底抜けに明るい同僚・大ちゃんに告白された。ISのヒロミは初めての恋にとまどう。彼に私の「ほんとう」を知られたら…。男でも女でもない孤独、家庭を築くことへの絶望。「大好きな彼を巻き込むことはできない」と悩むヒロミと大ちゃんが選んだ道とは?

 同シリーズには、ISとしてのカミングアウトに向かい合う「竜馬」、パティシエを目指す「春」のストーリーも続いていく。こちらも継続して読んでみてほしい。誰もが自分らしく生き、誰かを愛することの価値を気づかせてくれる名作だ。

■下ネタ、ナンセンス、なんでもあり! IS本人が描く明るいIS生活

 前述の『IS』が青春の切なさに満ちた作品であるのに対し、こちらの『性別が、ない!』(新井 祥/ぶんか社)は底抜けに明るいギャグテイスト。下ネタやお笑い要素満載のワイルドな作風だが、イケメン作者の新井祥氏はFtoM(女性として成長し、途中から男性を選択)として過去には「妻」の立場で結婚していたこともある。

 類は友を呼ぶのか、明るい作者の周りには濃いメンバーが集まる。元男性・今は超絶美人のお姉さん、ゲイの美青年のアシスタント…。“作者とゆかいな仲間たち”が繰り広げるドタバタの中に、作者の縮胸手術レポや、ダミーの男性器探しのアメリカまでの旅など、ISならではの話題も登場してためになる。

 ありのままの「半陰陽らしさ」を明るく描いた本作はカラッと笑いたいときにおススメしたい。

■脱力感がここちよい“日常系”LGBTマンガでいろいろな個性を知ろう

 ひとくちにLGBTといってもいろいろな個性がある。軽妙なタッチでリアルLGBTライフを描くのが『ぼくたちLGBT』(トミムラコタ/集英社)。作者自身が26歳バツイチ子持ちのバイの女性だ。

 99.9%実話という登場人物たちがとにかくバラエティに富む。ゲイの美青年やレズの不思議ちゃん、女装男子好きの紳士、果てはストレート(異性が恋愛対象)の男性なのに、なぜかおじさま文化人(ここでは名前を書けない…)には大興奮してしまう友人などが次々登場し、性ってなんだっけ?ととらわれるのが小さく感じてくる。

 14歳での歌舞伎町デビューや出会い系体験など、けっこう刺激的なテーマも含まれているのだが、ほのぼのタッチで明るく読める。作者のカミングアウトに対する母親の反応も必見。ほんと、いい味出してるお母さまです!

■亡き弟の結婚相手は外国人…のマッチョ男性。NHKでもドラマ化されたある家族の物語

 佐藤隆太、元大関の把瑠都による実写ドラマ化でも話題になったのが『弟の夫』(田亀源五郎/双葉社)。

 小学生の娘・夏菜と二人暮らしを送る弥一のもとに、ある日カナダ人の大男がやってきた。涙目で弥一を抱きしめた男・マイクは、今は亡き弥一の双子の弟・涼二の結婚相手だという。「男同士って結婚できるの?」と無邪気に問う夏菜。同性パートナ―の存在に拒否反応を示す弥一だったが、マイクの人柄に触れるうちに変化が訪れ…。

 いつもは朗らかにふるまうマイクが、愛する人を失った悲しみをこらえきれなくなるシーンは、性別や国籍を超えて心を打つ。作者は「小学生が読める漫画」として、『弟の夫』を描いたという。普遍的な家族の物語を描きたかったという狙いは見事成功しているようだ。

■同性愛は子供のうちから存在することを知ってほしい——ピュアな初恋が胸を打つ

 小学生だって恋をする。それは当たり前のこと。ただ、初恋の相手が同性だったら? ピュアで透明感あふれる作品が『ぼくのほんとうの話』(うさきこう/幻冬舎)。「ほんとうの話」というタイトル通り、作者自身の初恋物語だ。

 小学3年生の内気な男の子、こう君にとって、クラス替えは運命の日になった。かっこよくてやさしい正人くんと出会ったのだ。一緒に居ると楽しい、でも苦しい。「どうして男の子を好きになっちゃったんだろう」。その想いがこう君をうつむかせる。そして小学校卒業の日が近づいて――。

 小さい胸をひとり痛めるこう君の姿に、哀しい想いをする子供がこれからひとりでも減っていくことを願わずにはいられない。ちなみにうさきこう氏は、前述の『性別が、ない!』作者新井祥氏の現役アシスタント。現在でも美少年ぶりは健在だ。

■百合×BL×女装子? ちょっぴりダークな世界観に惹き込まれる

 いまにも唇が触れ合いそうな、美少女2人の表紙が印象的なのは『ぼくらのへんたい』 (ふみふみこ/徳間書店)。

 登場するのは3人の美少女…と思いきや、全員が女装子(=女装する男性)の中学生だ。顔立ちも内面も、少女そのままのまりか=裕太。死んだ姉の身代わりとして母親を慰める、ちょっと不良系のユイ=亮介。恋する先輩の欲求に応えるために女装を続ける、お姉さん系のパロウ=修。出逢ったときにはぎこちなかった3人も、秘密を共有する中で新しい時間が流れ出し…。

「ぼくらのへんたい」という、ちょっとドキッとするタイトルには、性的嗜好の「変態」と、さなぎから蝶に変化をとげる「変態」の両方の意味が込められている。それぞれに事情を抱える3人が、これからどうもがき、羽ばたいていくのか、ドキドキしながら見守りたい。

■女性同士のカップル、だけど子どもが欲しい! 「家族とは」を問う妊活レポ

 小雪とひろこはレズビアンカップル。東京ディズニーシーで初の同性カップルとして挙式、渋谷区パートナーシップ証明書の交付も受けたことが話題になった。それから3年後、ふたりには「子どもがほしい」という切実な願いが生まれていた。

『女どうしで子どもを産むことにしました』(東 小雪・増原裕子:著、すぎやまえみこ:漫画/KADOKAWA)は、血のつながった子どもを望むふたりが妊娠に向け奮闘する毎日を描いたコミックエッセイだ。

 レズビアンカップルでも物理的には妊娠が可能であるし、実際に子どもを得ているカップルもいる。時にはぶつかり合うこともあるふたりの妊活を通じて、本書は「ふつう」「家族」「しあわせ」ってなんだろう、ということまで考えを広げるきっかけを与えてくれる。

■男装女子&女装男子の逆転夫婦が送るラブラブ新婚ライフ

 短髪メガネでパンツ姿の「アメくん」は男装女子。茶髪ボブでワンピースが似合う「アンズちゃん」は女装男子。『男装女子と女装男子が結婚しました。』(やまだあがる/KADOKAWA)では、ふたりの馴れ初めから新婚生活、妊活がアメくん視点のコミックエッセイ形式で描かれる。

 独身のアメくんはある日ふと「家族が欲しいかも」と思い立つ。さっそく参加した掲示板で出逢ったのがアンズちゃん。3カ月の交際を経て、ふたりはめでたく入籍。

 カップルあるあるのほか、ガテン系で働く豪快なアンズちゃんが女性ものの下着姿&スキンヘッドで爆睡する姿を見て、アメくんが違和感を感じる描写など、細かいリアリティは実話ならでは。明るく可愛くたくましいアンズちゃんがとってもキュートだ。

■「誰か、私を抱きしめて!」生きづらさを抱えてたどり着いたのはレズビアン風俗だった

「自分らしく生きたい」という心の叫びを綴ったコミックエッセイが『さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ』(永田カビ/イースト・プレス)。pixiv閲覧数480万超の話題作に、改稿・描き下ろしを加えて書籍化したものである。

「レズ風俗」のフレーズが刺激的だが、メインテーマはレズ・風俗ではなく「さびしすぎて」にある。親子関係に由来する自己否定に長い間苦しんできた作者。「自分らしさ」獲得の突破口として、タブー視してきた「性」を開放するため、作者は意を決してレズビアン風俗に向かう。

 性的体験ゼロの状態から、セックスという究極のコミュニケーションに対峙した末に作者がつかんだものとは…。孤独を抱えるすべての人に読んでもらいたい1冊。

■【番外編】レズビアン風俗のリアルを、経営者視点から紹介

 最後に、漫画ではないがレズビアン風俗を経営者視点でまとめた1冊を紹介したい。前項の『さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ』内で、主人公が実際に訪れた風俗店のオーナーによる著書が『すべての女性にはレズ風俗が必要なのかもしれない。』(御坊/WAVE出版)だ。

『さびしすぎて…』が内面の吐露をメインとしているのに対し、本書はリアルなビジネス観点からお店の内側を紹介している。著者自身はストレート(異性愛者)男性であり、LGBTへの知識もほぼ皆無の状態から風俗店を始めたという。エステに行くように、女性にも気軽にお店で癒しを求めてほしいという著者。店舗システムなどの具体例のほか、キャストや顧客との交流録、お店が成長していくまでの過程も興味深い。表紙イラストは永田カビ氏による。

「あなた」と「私」が違うように、ココロとカラダの組み合わせは人の数だけある。多くの例に触れることで、マジョリティである「男(女)の身体に男(女)らしい内面」を持つ人も、LGBTの人も、心身の無限の組み合わせの一部にすぎないことが理解できる。

 何を自分らしさとし、誰を愛するか。その選択をすべての人が自由に行えるようになれば、世界はもっと温かいものになるかもしれない。

文=綾浜 悠