福井県を世界的なメガネ産地へと導いた人々の物語…待望の文庫化! MLB選手・吉田正尚も「ぜひ多くの方に読んでいただきたい」と太鼓判

文芸・カルチャー

公開日:2023/6/10

おしょりん
おしょりん』(藤岡陽子/ポプラ社)

 今やメガネの世界的産地でもある福井県。しかし明治38年の世にはメガネどころか、視力に良し悪しがあることすら広まっていなかったという。2023年6月6日に発売された文庫版『おしょりん』(藤岡陽子/ポプラ社)は、当時ほとんど普及していなかったメガネに情熱を注いだ人々のサクセスストーリー。福井県を世界的なメガネ産地へと導いた二人の兄弟と、彼らを支えた女性の物語が描かれている。

 同作は2016年2月に発売された『おしょりん』の文庫版で、『金の角持つ子どもたち』などで知られる作家・藤岡陽子氏の代表作の一つ。2023年11月3日(金・祝)には、俳優の北乃きいや森崎ウィン、小泉孝太郎らが出演する映画の公開も控えており、文庫版の表紙は山田祥子氏によるイラスト版と映画版の2種類が展開されている。映画の撮影は全て福井県内で行われ、10月20日(金)からは全国に先駆けて福井県でいち早く劇場公開される予定だ。


『おしょりん』の舞台になっている福井県麻生津村(現福井市)は、農閑期である冬の寒さが厳しい地域。雪が降ると外との関わりが閉ざされてしまい、冬の間は草鞋を編むくらいしかすることがなくなってしまう。

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 この地に農業以外の産業を根付かせるべく、立ち上がったのが増永五左衛門と弟の幸八だった。当時は高級品として扱われ、ほとんど普及していなかったメガネに着目し、幸八は村でのメガネ製造を提案する。

 幸八が五左衛門に話を持ちかけた当初、堅実家の五左衛門はすぐに首を縦には振らなかった。ただ、五左衛門の妻・むめの手助けや幸八のひたむきな姿に感化され、五左衛門の心は徐々にメガネ製造に惹かれ始める。

 やがて迎えた明治38年、村人や親族たちが猛反対する中で、五左衛門と幸八、むめは、いよいよメガネ製造へと乗り出す。厳しい資金繰りやメガネ製造技術の習得、職人たちの苦悩など、さまざまな登場人物の視点から、およそ6年間にわたるメガネ製造のリアルが紡ぎ出されていくのだ。

 同作は単行本が発売された当初から好評を博している作品で、SNS上には「読んで良かったと思えるおすすめの一冊」「兄弟の熱量が半端ない。その強い意志と諦めない心に感動した」「日本のメガネ産業がどうして福井の鯖江という地に根付いていったのかがよくわかる。メガネファン、福井県民にはぜひ読んでもらいたい」「誠実に生きる人々の姿が清々しく、読後感は爽快。藤岡陽子、恐るべし…」などの声が数多く見受けられる。

 また物語の舞台となった福井市麻生津出身で、メジャーリーガーの吉田正尚選手も愛読者の一人のようで、文庫版の帯には「僕が生まれ育った福井市麻生津に、こんな凄い兄弟がいたことを初めて知りました」「『おしょりん』をぜひ多くの方に読んでいただきたいです」とコメントを寄せていた。

 ちなみに同作のタイトルである“おしょりん”とは、朝の冷え込みで雪の表面が硬く凍ってしまう状態のことを指す。映画では、この情景をどのように表現するかも一つの見どころだという。

 雪の上で沈まず歩けるよう、メガネ製造に魂を燃やした3人の物語。まずは文庫版でイメージを膨らませ、映画鑑賞に臨んでみてはいかがだろうか。

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