山田風太郎の最高傑作がマンガで甦る! 『十(ジュウ)~忍法魔界転生~』に大作の予感

マンガ

更新日:2013/2/18

 今や各コミック誌に必ずといっていいほど時代劇が1つか2つはあり、独自の進化を遂げている。人の生死や剣術アクション、現代にはない英雄像や激動の運命を描けるとあって、人気作家がこぞって題材とするジャンルだが、ストレートに歴史上の英雄を描くに飽きたらず、そこにSF的な「if」を盛り込むことが定着。たとえば、もし織田信長が現代の高校生だったら……? もし島津豊久や土方歳三が異空間でバトルロワイアルしたら……? などなど奇想天外な発想が新たな時代劇を生み出している。

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 時代劇のエンターテインメント化によるこうした潮流は、今にはじまったことではなく、小説の世界では山田風太郎が異色時代劇を定着させた。元々ミステリ作家として定評があったが、徐々にエログロを盛り込んだ異色時代劇にシフト。1958年に発表した『甲賀忍法帖』(講談社)で一躍流行作家となる。時代小説というと、古風な言い回しや歴史観があって入りにくいと感じる人も多いだろう。しかし、山田風太郎の小説は、それこそマンガを読んでいるような感覚。無頼のキャラクターたちの台詞や奇想天外な展開は、今読んでも刺激的だ。

 山田風太郎の最高傑作とされているのが『魔界転生』だ。1981年に千葉真一・沢田研二主演で映画化されたことで知る人も多いだろう。物語は、忍法によって蘇った天草四郎や宮本武蔵が徳川政権打倒を企てるといった奇想天外な展開。この稀代の異色時代劇が満を持してコミカライズされた。『月刊ヤングマガジン』(講談社)連載中のせがわまさきの『十(ジュウ)~忍法魔界転生~』(山田風太郎:原作/講談社)だ。

 せがわまさきは山田風太郎の代表作『甲賀忍法帖』を原作とした『バジリスク 甲賀忍法帖』(講談社)で2004年度の講談社漫画賞(一般部門)を受賞するなど、一躍人気マンガ家となった。その魅力というと、アニメかゲームを体感しているような臨場感とスピード感。異形の忍者たちの荒唐無稽な忍術が、圧倒的な画力で描かれ、ぐいぐい世界観に惹きこまれる。

 それもそのはず。せがわまさきは元大手ゲーム会社勤務のCGクリエイター。会社を辞めることになり、3Dソフト(当時300万円近く)を駆使してマンガイラストを描き、講談社の賞に応募してデビューしたという変わった経歴の持ち主だ。ちなみにそれまで一切マンガを描いたことがなかったという。『バジリスク』のヒット以来、『Y十M~柳生忍法帖』、『山風短』(共に講談社)など一貫して山田風太郎原作を描き続けている彼が、いよいよ山田風太郎の最高傑作に着手したというわけだ。

 しかし、ここに至るまで、せがわまさきはずっと躊躇していたそうだ。なぜなら原作では、主人公にあたる柳生十兵衛が登場するのは、物語が半分ほど進んでから。当初は主人公がなかなか出て来ないマンガなんて「ムリだ」と感じたらしい。実際、現在発売されている1巻も、天草四郎や宮本武蔵が転生するシーンで占められ、柳生十兵衛はまったく顔を出していない。

 ただし、いち早く柳生十兵衛に会う方法がある。物語上は明言されないようだが、前作『Y十M~柳生忍法帖~』の主人公だった柳生十兵衛と『十(ジュウ)~忍法魔界転生~』の主人公は同一人物として描かれるようなのだ。めっぽう強いが、どこか抜けていて愛嬌のあるヒーロー・柳生十兵衛。山田風太郎自身もこのキャラがかなり好きだったようで、3部作で3度も主人公にしている。あの柳生十兵衛に再び会えると思うと期待は膨らむばかり。魔界の者として蘇った天草四郎、宮本武蔵、田宮坊太郎らと、どんな死闘を繰り広げるのか。

 異色時代劇を確立した山田風太郎と、コンピュータを駆使するマンガ家せがわまさき。時代を超えたこの名コンビが生み出す『十(ジュウ)~魔界転生~』に早くも大作の予感……。たっぷり刺激を与えてくれるにちがいない。