累計20万部突破の「花咲小路」シリーズ最新作が文庫本に!『花咲小路二丁目の寫眞館』はノスタルジーが感じられるタイムスリップミステリー

文芸・カルチャー

公開日:2024/2/6

花咲小路二丁目の寫眞館
花咲小路二丁目の寫眞館』(小路幸也/ポプラ社)

 累計発行部数20万部を超える大人気「花咲小路」シリーズ。その第7弾にあたる『花咲小路二丁目の寫眞館』の文庫版が、2024年2月6日(火)に発売される。ユニークな人々が生活を営む「花咲小路商店街」を舞台に、いったいどんな事件が語られていくのだろうか。

 同作を手掛けるのは、2013年にテレビドラマ化も果たした『東京バンドワゴン』シリーズで知られる作家・小路幸也。これまでに「花咲小路」シリーズは6作品刊行されており、巻ごとに違った語り手が登場しつつ、シリーズ共通の舞台「花咲小路商店街」で巻き起こるエピソードを伝えていく。

 「花咲小路商店街」ではユニークな人々が商売を営んでおり、巻を重ねるごとに広がっていく街の様子を追いかけるのも醍醐味のひとつ。そうした仕組みがファンを定着させる秘訣になっているのか、「次から次へと読みたくなる」「小路さんは様々な人間関係における温かさの距離感を書き分ける達人。温もり溢れる人情をふんだんに描いていて実に見事」と称賛の声が後を絶たない。

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 そんな人気シリーズの最新作となる『花咲小路二丁目の寫眞館』の舞台は、「久坂寫眞館(寫眞は写真の旧字体)」。そこへ今作の語り手となるフォトグラファー・桂樹里が就職面接に訪れ、店主・久坂重(じゅう)と出会うところから物語が幕を開ける。

 重は先代の父が亡くなったために急遽として跡を継いだ人物。以前は写真と関係ない仕事をしていたが、カメラの腕前はプロにも劣らないという。しかし、なぜか自分で写真を撮ろうとはしない。それもそのはず、重が人を撮影すると“そこには存在しないもの”が写り込んでしまうからだ。

 しかも連続写真で見てみると、“それ”は動いていた。そんな自身の特異体質を実践しつつ樹里に説明していると、彼女は「これ、動画で撮ったら、どうなるんでしょうか?」とポツリ。そこで試しにビデオをまわそうとしたところ、停電が起こると同時に約30年前の「花咲小路商店街」へタイムスリップしてしまうのだった――。

 摩訶不思議というほかない現象に巻き込まれた重と樹里だが、そんなふたりに手を貸すのがシリーズの名物キャラクターになっている「マンション矢車」のオーナー・矢車聖人(セイさん)。日本に帰化した元イギリス人で、その正体は同国で暗躍した怪盗紳士・セイントである。

 重と樹里はセイさんの力を借りつつ、タイムスリップした1990年の「花咲小路四丁目」にて発生する大火事の謎を追うことに。ふたりが時空を飛び越えた件とどんな関係があるのか、そこで明らかになる秘密とは……。テンポ良く物語が進むため、ページをめくる度にワクワクが止まらなくなるだろう。

 一方でミステリー描写だけでなく、著者の小路によって紡がれるノスタルジーな雰囲気も読みどころのひとつ。作中では、30代の重が20代の樹里に当時の流行りや生活感を説明するシーンが多いため、その時代を知らなくとも読んでいて楽しめるに違いない。

 とはいえシリーズものなので、初めての人には少々ハードルが高く感じられるかもしれない。だが、既刊のエピソードを知らなくても問題なく読み進められるストーリーになっていると同時に、セイさんの活躍ぶりを見れば過去作を読んでみたくなるはず。ぜひ今作を手に取り、「花咲小路商店街」の世界への第一歩を踏み出してみてほしい。

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