村上春樹新訳で話題! 『フラニーとズーイ』川上未映子の関西弁訳もおもしろい!

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/22

村上春樹が、サリンジャーの『フラニーとズーイ』(新潮社)を新訳し、話題になっている。春樹といえば、かつて同じサリンジャーの『キャッチャー・イン・ザ・ライ』を新訳しベストセラーとなった。その際、『翻訳夜話2 サリンジャー戦記』(文藝春秋)などで「『フラニーとズーイ』を関西弁で訳してみたい」と語っていたこともあっただけに、「関西弁なのか?」と期待した人もいたかもしれない。実際は、関西弁ではなかったのだが、関西弁の『フラニーとズーイ』も読んでみたいという人にオススメなのが、川上未映子のエッセイ集『そら頭はでかいです、世界がすこんと入ります』(講談社)だ。このなかに、『フラニーとズーイ』の一部を関西弁で翻訳してみた「フラニーとゾーイーやねん」というエッセイが収録されているので、その訳を紹介してみよう。

この『フラニーとズーイ』は、名門大学に通うグラス家の末娘・フラニーと、そのすぐ上の兄で、俳優をしているズーイをめぐる物語になっている。たとえば、レストランでフラニーがイライラしながら彼氏に向かって言うセリフ。村上春樹は「私は人と競争することを怖がっているわけじゃない。まったく逆のことなの。それがわからないの?」「なにかしら人目を惹くことをしたいと望んでいる私自身や、あるいは他のみんなに、とにかくうんざりしてしまうの」と訳している。しかし、川上未映子が訳すと「ちゃうねん。張り合うのが怖いんじゃなくて、その反対やねん、判らんかなあ」「私も、ほかのみんなも、内心は何かでヒット飛ばしたいって思ってるやろ。そこがめっさ厭やねん」になるのだ。なんだか、関西弁の方がよりフラニーのイライラした感情が伝わって来るような気がする。

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また、ズーイが居間の床に寝転んで、引きこもりのフラニーを説得するシーンでは、「彼が自分の髪をどのように扱おうが、それは君とは何の関わりもない問題じゃないか。彼の気取った振る舞いを一種滑稽だと思うのは、まあ言うなれば、君の自由だ。そういう痛ましい格好づけをしなくちゃならないくらい自分に自信がないんだということで、彼を少しばかり気の毒に思ったっていい」。「もし君がその<システム>に戦いを挑むなら、君は育ちの良い知性のある娘として、相手を撃たなくちゃいけない」というのだが、標準語だと冷静に妹を諭す兄といった印象を受ける。でも、関西弁だと「あいつが自分の髪の毛をどうしたこうしたってええやんけ、あいつ何気取ってんねん、ププ、ダサイやつやなー思てたら済む話やんけ」。「あんな、フラニーな、制度を相手に戦争でもおっぱじめたろかゆうんやったら、頭ええ女の子らしい鉄砲の撃ち方を、せえや」となる。川上未映子自身も、この訳に対して「なんか意味深なゾーイーの説得」と言っているのだが、同じセリフでも訛りだけで全然イメージが変わってくるのだ。

このエッセイ集で関西弁訳されているのはほんの一部だが、川上未映子訳「フラニートゾーイーやねん」完全版もぜひ読んでみたくなる。実現したら、村上春樹訳『フラニーとズーイ』以上の話題になるかもしれない。

文=小里樹