ホリエモン×鈴木みそ×うめ、電子書籍について大いに語る ―イベントレポート「春の電子書籍祭り with マンガHONZ」

マンガ

公開日:2014/5/2


左から、うめ氏、鈴木みそ氏、堀江貴文

 4月22日、新宿ロフトプラスワンで「春の電子書籍祭り with マンガHONZ」が開催された。これは、2014年2月3日に始まった、マンガのキュレーションサービス「マンガHONZ」(http://honz.jp/manga)の編集長・ホリエモンこと堀江貴文氏が主催したイベントで、電子書籍と何かと縁の深いマンガ家の鈴木みそ氏、うめ氏を招いて、電子書籍について赤裸々に語るというトークイベントだ。

■キュレーションサービス「マンガHONZ」編集長を堀江氏が引き受けたワケとは

 うめ氏は早い時期から自身で電子コミックを出版していたが、そのきっかけは「出版社が海賊版を取り締まることを理由に“出版権”の創設に向けて動き始めているのを知った」ことだったという。しかし、実際、海外での取り締まりは実質不可能であり、彼らの本音が電子書籍の権利を得ることだ、と感じたため、「自分でやってみよう」と考え、『青空ファインダーロック』を日本で初めてKDP(Kindle Direct Publishing)で販売したのだ。

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 そんなうめ氏の『東京トイボックス』や鈴木みそ氏の『銭』など2人の作品を読んできた堀江氏。特に『銭』を自身のブログで紹介したところ、増刷になるほど大きな反響があったことや、最近では若い人たちがあまりマンガに触れていないと感じていること、マンガの良書にぜひ触れてもらいたいと思っていること、それらの思いがあり、元日本マイクロソフト代表の成毛眞氏主催の書評サイトHONZでマンガ版の編集長を務めることになったという。

■「Amazonに物申す!」

 電子コミックといえば、国内ではフィーチャーフォン時代からコミックシーモア、まんが王国、BookLive!(旧Handyコミック)など古参組があるが、AmazonのKindleストアで購入するユーザーも多い。そんなKindleストアに求めていることは「続刊予約の仕組み」だと堀江氏。「KDPという新人が作品を発表する仕組みを備えているにもかかわらず、継続して販売できないのでは、プロとして食べていくことができない。それでは続けられない」というのが理由の1つだ。

 もちろん、購入者の立場としての理由もある。「買ったことを忘れて、同じマンガを何冊も買うことがある(笑)。その作品を気に入って購入するのだから、続刊を購入したいという思いがある。それなのに、自分で探しに来ないといけないとしたら、購入の機会を失ってしまうかもしれない。続刊が予想される作品については購入時に“新刊を予約”というようなボタンを設置しておいてくれれば、売る側も買う側もWIN WINになるのではないだろうか」(堀江氏)。

 Amazonには、飲料水やおむつ、ペットの餌など、定期的に必要になると思われるものについては定期購入プログラムがある。一度申し込んでおけば、1カ月から6カ月ごとに自動的に購入手続きが取られ、家に届けられ便利だ。しかも、割引も受けられる。

 そのようなシステムがあるのに、なぜ続刊予約購入ができないのか。「Kindle連載という素晴らしいシステムを作ったのだから、そういうシステム作ってくださいよ、と依頼しても、全然聞き入れてくれないんだよね」と堀江氏が語れば、「Amazonだから」とうめ氏とみそ氏が声を合わせるかのように反応していた。

■Webコミックによって発掘される埋もれた才能

 「新人が作品を発表する仕組み」と関連して、Webコミックについても話は及んだ。最近ではWebコミックで新人を発掘する動きがあり、業界は賑わっている。Webコミックは、標準のWebブラウザで読むものもあれば、専用アプリを利用して読むものもある。

 出版社系では『週刊Dモーニング』や『裏サンデー』『となりのヤングジャンプ』などがあり、それ以外ではDeNAの「マンガボックス」やNHN PlayArtの「comico」、COMICSMARTの「GANMA!」などがある。いずれも、(一部を除いて)無料で楽しめるのだが、出版社系ではないWebコミックサービスでは、新人を育てる仕組みが整っている。

 マンガボックスでは、今年3月28日から「マンガボックス インディーズ」を開始し、無名の新人たちが作品を投稿できるようにした。また、GANMA!やcomicoはそもそも新人を発掘し、育てるために提供開始したサービスであり、積極的に新人を探し出し、作品を掲載し、連載し続けられるようにしている。

 「今後、どのようなビジネスモデルを取っていくかが課題となるだろう」(トキワ荘プロジェクト・菊池健氏)

 最近では、「紙の商業マンガ誌のステータスも下がりつつある」と、菊池氏。「なぜ彼らが商業誌でデビューするかというと、自分たちの同人誌をより販売できるよう露出を増やしているに過ぎない。もしくはアニメ化を狙っているのかもしれない」(菊池氏)。

■3人の考える紙と電子のマンガの「これから」

 電子版のコミックが多くなってから作品の作り方が変わったとみそ氏、うめ氏は声を揃える。

 ページ割り、コマの切り方、フキダシの大きさなどが、電子版を意識したものになったという。紙のコミックで、見開きページ中央をぶち抜く場合、物理的に「ノド」の部分が中央にあるため重要なものを入れられない。しかし電子なら中央部でもフラットなので、そういう事を考えないでも済む。「自分たちの表現したかったことを電子版で表現できるようになった。電子コミックのほうが高いクオリティを保てる」(みそ氏)。


MacBookAirを使って説明するうめ氏とみそ氏

 堀江氏は、マンガが紙である必要性を感じておらず、そのため2010年ごろ、マンガボックスのようなサービスを作ろうとしていたことがあったという。実現はしなかったが、「その時に、作っていたら、僕達のマンガ作りももっと早くに電子コミックを意識した体裁になっていたかもしれないですね」とうめ氏はその先見の明に驚いていた。

 今後、マンガに関していえば、「紙の雑誌は限りなくゼロになっていくのではないか」という予想をうめ氏は立てており、「だからといって、電子コミックで、動画や音声の取り込みなど奇抜なものが主流になっていくとも思えない」と述べた。その理由は、「マンガは低コストでできるのが強み。例えば、ページ全体を墨で黒く塗り、その上にホワイトをスパッタリングで飛ばせば“はい、宇宙です”と言える。しかし、それを動かそうとすると、膨大なコストと手間がかかってしまう。そうなってしまえば、割に合わなくなってしまうので、電子の体裁を意識しつつ紙の表現方法を踏襲していくのではないか」と説明していた。

 本イベントではうめ氏から大きな発表があった。あまりにもリアルAppleイメージ過ぎて、Appストアの審査を通らなかったというコミック『スティーブズ』が6月27日発売の「ビッグコミックスペリオール」(小学館)で連載開始になるという。内容の一部を紹介する際、堀江氏によるアフレコが行われ、会場は大いに盛り上がった。

 マンガ離れが進んでいるといわれる昨今。マンガ雑誌や単行本の市場は縮小しているが、スマートフォン向け電子コミックという、気軽に読める形態のマンガも登場してきている。マンガHONZが発掘するような既刊の良書などが、今後積極的に電子化されるなら、それはマンガ市場の活性化につながるのではないか。そう感じられるイベントだった。

 なお、当日のイベントの様子は、「堀江貴文 ブログでは言えないチャンネル(堀江貴文)– ニコニコチャンネル:社会・言論 」に収録されているので、合わせてご覧頂きたい。

取材・文=渡辺まりか