『みんなの少年探偵団』万城目学&湊かなえインタビュー ―「オリジナルを書くよりも緊張」(湊) 「書いているほうはおっかなびっくり」(万城目)

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2014/11/7

 乱歩生誕120年記念として編まれた『みんなの少年探偵団』に作品を寄せたのは、いずれ劣らぬ少年探偵団愛を持つ万城目学、湊かなえ、小路幸也、向井湘吾、藤谷治の5人。今回はその中から、万城目さん、湊さんのお二人にお話をうかがった。

湊かなえ、万城目学対談

(左)湊かなえ
みなと・かなえ●1973年、広島県生まれ。2007年、第29回小説推理新人賞を受賞、『告白』でデビュー。09年同作で第6回本屋大賞、12年「望郷、海の星」で第65回日本推理作家協会賞短編部門を受賞。著作に『贖罪』『Nのために』『白ゆき姫殺人事件』など多数。近刊『物語のおわり』。
(右)万城目学
まきめ・まなぶ●1976年、大阪府生まれ。2006年、第4回ボイルドエッグズ新人賞を受賞した『鴨川ホルモー』でデビュー。著作に『鹿男あをによし』『プリンセス・トヨトミ』『かのこちゃんとマドレーヌ夫人』『偉大なる、しゅららぼん』『とっぴんぱらりの風太郎』など。近刊に『悟浄出立』。

 

図書館で借りるのも一苦労 大人気だった少年探偵団

――お二人は少年探偵団シリーズの大ファンだそうですが、初めてこのシリーズを読んだのはいつごろでしょうか。

万城目:小学校3年生のころでした。小学校の図書館にあって、たぶん2年ぐらいかけて全て読んだと思います。人気シリーズなので、借りられていることが多く、見に行ってあったらラッキーという感じで借りていましたね。

湊:私も読み始めたのはそれぐらいの年齢だったと思います。ポプラ社から出ていた子ども向けの「ルパン」シリーズが家の本棚に何冊かあったので、まずそれを読んで、ないものを学校の図書室で借りていたのですが、同じ棚に「少年探偵団」シリーズが並んでいたので自然と手に取るようになりました。

――子どもにとって「少年探偵団」は定番中の定番で、読書嫌いの子でも夢中になって読んでいましたよね。全46作ある中、お二人のベスト作品は何か教えていただけますか。

万城目:僕は『透明怪人』です。少年探偵団のシリーズはどの作品も最初にちびっ子が二十面相の仕掛けた不思議な出来事に出会い、そこから二十面相の計画が進んでいくというパターンがあって、仕掛けが違うだけで展開はどれもほぼ同じですが(笑)、『透明怪人』はその最初の仕掛けが楽しいんです。小学6年生の島田君と木下君が、見知らぬ町で蠟人形のようにのっぺりとした顔の紳士に出会い、正体を探ろうと尾行したところ、紳士はなんと透明人間だったという。レンガの壁をバックに、上着を脱ぎ、ズボンを脱ぎ、靴を脱ぎ、最後には靴下を脱いで完全に消えてしまう、このシーンが本当に楽しい。僕も読みながら、男が消えていく様を作中のちびっ子の視線に同化して追体験をしたものでした。それから、『蜘蛛男』も好きです。大人向けの乱歩小説をリライトした27巻以降(※現在は発売されていない)はかなり残酷な話が多いし、バラバラ死体というネタは前巻の『一寸法師』でも使われているけれども(笑)、子どもって実は毒のある話のほうが好きでしょう?

湊:大人が禁止するようなもののほうが、ちょっと背伸びした感じもあって、ドキドキできますからね。乱歩作品には夕方の路地裏のような雰囲気が漂っているじゃないですか。子どもの怖いもの見たさを刺激するのだと思います。そういう意味で一番印象に残っているのが『一寸法師』です。デパートの呉服売り場にあるマネキンの腕が、実は本物の人間の腕で……というシーンなど、本当にぞっとしました。また、ワイヤーが手のひらに食い入って骨をこするシーンなどは思わず「痛い!」と叫んでしまいそうな迫力で。すごく感覚的に刺激された覚えがあります。

誰もが知っている乱歩の世界 そこに飛び込むプレッシャー

――少年探偵団シリーズはすでに児童書の古典ともいうべきものですし、深い思い入れを抱くファンも少なくありません。それらに連なる新作を書くのは難しくありませんでしたか?

湊:自分のオリジナル作品を書くよりも緊張しました。乱歩のコアなファンに怒られないようにしなければと思いましたし。でも、子どものころに大好きだったシリーズの世界に入っていけるのはすごいことですし、やってみるとやはり楽しかったです。

万城目:僕は最初、二十面相をコメディっぽく書いた作品にしようと思っていたんですよ。2009年に少年探偵団シリーズがポプラ文庫クラシックから刊行された際、『空飛ぶ二十面相』の巻末エッセイを書かせてもらったのですが、それが二十面相をそれとなくおちょくる内容なんです。だって、二十面相って、スケールの大きい悪人のはずなのに異様にマメですし、シリーズの後になればなるほど、「アホ」になっていく。カニの形をした怪人Rとか、それなんやねん、とツッコミを入れたくなります(笑)。ところが、いざ今回書き始めようとなるとあまりしっくりこず、結局は極めて真面目な作品になりました。先ほど、湊さんが乱歩作品の雰囲気を「夕方の路地裏」と表現されましたが、まさにそんな作品になったと思います。

――おっしゃる通り、万城目さんの書かれた「永遠」は戦前の日本の仄暗さが漂う作品です。一方、湊さんの「少女探偵団」は少年探偵団独特のワクワク感がつまった正統派ジュブナイルになっていますね。

湊:今の子どもたちはあまり少年探偵団シリーズを読まないようなんです。それではもったいないと思うので、入り口になるようなものを書けたらいいなと、今の小学生が自然に理解できるような設定で、でも「少年探偵団の型」はきっちり踏まえた作品にしました。BDバッジ(少年探偵団の団員のみが持てるバッジ。表面に掘られたBDはboy detectiveの略)などの子ども心を刺激するポイントもしっかりと取り入れています。

万城目:やっぱり型は大事ですよね。僕の作品はちょっと上級者向けというか、少年探偵団を一通り知っている人がプラスαで楽しめるようなものになっています。対して、湊さんの作品は乱歩を読んだことがない人でも楽しいと思うから、好対照です。大人の読者の場合、たぶん僕のを読んでから湊さんの作品を読むと、すごくバランスがいいと思いますよ。

大人になって改めて気づく少年探偵団シリーズの魅力

――今回は競作という形で、5人の作家が少年探偵団ものに挑んだ結果、非常に個性的な作品が並びました。改めて、このシリーズの懐の深さを感じたのですが、競作という形で新しい作品を出すにあたり、どんな点に力を入れられましたか?

万城目:乱歩の作品は、現在の小説家ではもう書けないようなもので溢れています。たとえば、入れ替わりエピソードが使われる話だと、その家のお嬢さんが洋服を変え、ちょっと顔を汚しただけで、親でさえ我が子と気づかなくなる。だけど、普通はそんなわけないでしょう?

湊:小林君の女装も誰一人見破れないですしね(笑)。

万城目:そうそう。明智探偵が2人登場する場面もしょっちゅうあるのに、毎度みんな初めてのように驚くし(笑)。今の作家にはもう書けないですよね、そういうのは。自制心が働いて。でも、それでも少年探偵団はおもしろい。展開は似たり寄ったりでも、毎回凝りに凝った謎が仕掛けられている。一回一回の企みがすごく練られています。だから、現代の小説の作法に則りつつ、謎の手抜きのなさは踏襲しなければと思い、大正時代の地図を買ったり、当時でないと成り立たないトリックを模索したりと、いろいろ工夫しました。

湊:乱歩が描いた大正から昭和初期にかけての世相がもう遠いものになってしまっているのも、今の子どもたちに作品が届きづらくなっている一因かもしれません。たとえば、乱歩の描くサーカスは背徳感漂うアングラ的なものですが、今のサーカスには全くそんな雰囲気はないですよね。ですから、昔の常識とは切り離された現代の子でも想像しやすいような導入にしてみました。それと、女の子を紅一点的な扱いにするのではなく、むしろ女の子のほうがリードしていくような場面も出したかった。昔なら冒険は男の子の特権だったかもしれないけれども、今は女の子が活躍してもおかしくない時代ですし、そもそも女の子だって冒険が大好きですからね。

――今回、本のタイトルが『みんなの少年探偵団』となったように、本書は子どもばかりではなく、大人が楽しめるものになっていると思います。かつて少年探偵団にあこがれていた皆さんに一言いただけますか?
万城目 書いているほうはおっかなびっくりではあるのですが、今回の寄稿者は全員、乱歩という下味を守りつつ、自分のカラーを出すという難事にギリギリの間隙をついて挑戦していると思うので、それぞれの切り口というか、どんな入り口から少年探偵団という山に向かって登頂ルートを切り開いたかという点に注目してもらえるとうれしいです。

湊:少年探偵団を読んで大きくなった大人の皆さんに、子どものころのドキドキを思い出してほしいですね。最近あまりドキドキしていないという方には、特にお勧めしたいです!

取材・文=門賀美央子 写真=下林彩子

 

『みんなの少年探偵団』

万城目 学、湊 かなえ、小路幸也向井湘吾、藤谷 治
ポプラ社 1400円(税別)

「少年探偵団と怪人二十面相の対決」をテーマにした5作のオマージュを収録する競作集。

〈収録作品〉
「永遠」万城目 学
父の死をきっかけに、祖父と暮らし始めた双子の兄弟。その祖父が初対面の孫たちにささやく。自分はむかし、「泥棒」だったと。

「少女探偵団」湊 かなえ
体操の地方大会での失敗が心の傷になったカスミに、祖母は、自分が小学生のころに体験した、怪人二十面相との対決を語り始める。

「東京の探偵たち」小路幸也
部屋で倒れていた依頼人の首筋にあった傷跡を吸血鬼の仕業という医者。雇い主に促され、俺が向かった先には小林と名乗る男がいた。

「指数犬」向井湘吾
少年探偵団の名物コンビが謎の男から託された増え続ける犬。暴走を始めた犬たちに襲われ、ピンチに陥った二人の前に現れた者とは。

「解散二十面相」藤谷 治
明智探偵と少年探偵団の活躍によりまた捕まった怪人二十面相。まんまと逃げ出したものの、もう二十面相をやめるといい始め……。