キャラメルと小説がコラボ! 角田光代×朝井リョウ 対談

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2015/6/5

 1913年に発売されて以来、国民的お菓子として愛され続けてきた「森永ミルクキャラメル」。そのパッケージの中箱に、なんと人気作家2名による書き下ろし小説が掲載されることになった。手のひらに乗る小さな小さな物語に、作家たちはどんな気持ちを込めたのだろうか?

(左)角田光代
かくた・みつよ●1967年、神奈川県生まれ。90年「幸福な遊戯」で海燕新人文学賞を受賞し、デビュー。96年『まどろむ夜のUFO』で野間文芸新人賞、2005年『対岸の彼女』で直木賞など受賞多数。著作に『八日目の蟬』『紙の月』『私のなかの彼女』『笹の舟で海をわたる』など多数。
(右)朝井リョウ
あさい・りょう●1989年、岐阜県生まれ。2009年『桐島、部活やめるってよ』で小説すばる新人賞を受賞し、デビュー。13年『何者』で直木賞、14年『世界地図の下書き』で坪田譲治文学賞を受賞。著作に『もういちど生まれる』『少女は卒業しない』『スペードの3』『武道館』などがある。

──今回、キャラメルの中箱の裏側という非常に小さなスペースに小説を書くというとても珍しい仕事をなさったわけですが、何か特別な感慨はありましたか?

朝井:すごく不思議な感じです。子供の頃からとても身近に、当たり前のようにあったお菓子のパッケージに、自分の小説が載るのですから。しかも光栄なことに、角田さんと並んでですよ? 嬉しさと驚きでいっぱいです。

角田:私もそんな気持ちになったと同時に、キャラメルの箱に小説を載せようなんて、よく思いつくものだと感心しました。実は、ちょっと不安もあるんです。本当にみなさん、喜んでくださるのかなって。人気のアニメキャラとかのほうがよかったんじゃないって(笑)。私の中では、小説のイメージはいかにも地味なものなので。

朝井:確かにそれはありますね(笑)。ただ、キャラメルって必ずしも子供だけのものではなくて、幅広い年齢層が手を伸ばすお菓子じゃないですか。だから、小説でもアピールになると思われたのかな、と。今回にしても、角田さんは大人がぐっとくるお話を書かれているのに対して、僕は10代の少年少女担当になりました。

角田:「僕は高校生の話にしようかと思っています」って、朝井さん、結構早くに教えてくれましたよね。あれは助かりました。若い人の話だとやはり朝井さんに敵うわけがないというのがあったので。

朝井:とんでもない。僕こそ、角田さんと並ぶなんて冷や汗ものでした。実際、できあがってきたものを読んで、思わずうなってしまいましたし。

角田:ありがとうございます。

朝井:今回、全3話構成になるのは予め決まっていたとはいえ、キャラメルを一気に3箱も買う人は少ないだろうから、一つ一つはそれなりに独立していないと駄目だなと思いました。しかも全部読んだ時により面白くなっていないといけない。とはいえ、この文字数だと説明的な文章を入れるのは難しく、今の僕の力ではなかなか理想にはおよばなくて。結局は普通の続き物になりました。ところが、角田さんはその理想をちゃんと実現していた。僕、もう、すごく落ち込んじゃって(笑)。

角田:私のほうだって、朝井さんのキャラメルの使い方は真似できないなと思いました。時間を図る小道具としてキャラメルが出てくる。チョコともガムとも違う、キャラメル独自の食べ終わるまでの時間があるというのは確かにそうだなと納得できた。すごく「キャラメル感」がありましたね。

特別な時のキャラメル 生活の中にあるキャラメル

朝井:あれ、僕が受験生の時に本当にやっていたことなんです。休憩をする時、5分間などと時間で区切るのではなくて、キャラメル一粒を舐め終わるまで、というふうに。

角田:なるほど!

朝井:他のお菓子だと、こうはいかないんです。普通の飴だと途中から噛んでしまうし、ガムはだんだん味がなくなっていく未来が見えているから、何だか可愛げがない。離れていく男女、みたいな。でも、キャラメルは初めのうちこそ硬いけれど、噛んでいるうちにやわらかくなって、どんどん自分の口の形にあってきますよね。あの感じがなんだかいいなあ、と。さらに、長時間楽しめるのに、最後まで味がなくならない。

角田:うんうん。

朝井:さらに、もっとスパンの長い時の流れを体感できる食べ物でもある。キャラメルって、大人になっていくにつれて、形状が変わっていくじゃないですか。硬い固形キャラメルばっかりだったのが、やわらかいキャラメルの存在を知ったり、ちょっと高級なアイスクリームにかかっている液体状のキャラメルソースに大人を感じたり。成長段階に従って異なるフォルムを知っていくお菓子って、わりと珍しくないですか? そういうことも含めて、僕にとって、キャラメルはちょっと贅沢で特別なイメージがある。でも、角田さんのキャラメルは、とても日常的な感じがしました。

角田:実は私、低血糖症なんです。だから、過度にお腹が空くと、バーっと汗が出てきて、震えて、視界が暗くなってきて、悪くすると往来で倒れることになってしまう。だから、かばんの中には常にキャラメルのような甘いものを入れておかないと怖い。逆にいうと、キャラメルが一粒でもあると、なんだか安心感がある。その感じを出せないかなと思いました。

朝井:なるほど。甘いものが持つ、人をホッとさせる力ですね。

角田:ええ。3話あるうちの第一話で、電車の中でむずかる我が子に困り果てているお母さんを登場させたのはそのためです。今のお母さんたちって、私が子供の頃のお母さんより追い詰められている感じがすごくする。公の場で、小さな子に寛容な大人が少なくなった、ということもあると思います。その様子を見るたびに、ちょっと心配してしまう。だから、気を抜くことができる時間を日常的に持ってもらいたいし、それを呼ぶことができるのが一粒のキャラメルかなあ、と。

誰もが知っている味 新しいチャレンジの味

朝井:角田さん、第三話で、子供の声の比喩として「箱の色みたいな陽気な声」と書かれたじゃないですか。これを読んだ時、すごい表現を見つけられたと思いました。他では見たことがない種類の比喩なのに、誰でも一瞬で理解できますよね。これは、みんなが森永ミルクキャラメルのパッケージを知っているという前提があるから可能なわけですが、それをこんなふうに使ってしまう角田さんの言葉を結びつけるセンスがまた非凡で。両方にすごさを感じました。

角田:ありがとうございます。それにしても、100年以上定番であり続けるってちょっとびっくりですよね。次々と新製品が出てくる分野なのに。朝井さんは新しいお菓子には果敢に挑戦するほうですか?

朝井:僕はあまり冒険しないですね。

角田:私は意外にチャレンジするほうなんですよ。新しい味が出るたびに、ひと通り試します。

朝井:じゃあ、いろんな風味のキャラメルがあるのは試されましたか? あずき風味などもあるそうですよ。

角田:へえ、キャラメルもやっぱり次々と新しい味が出るものなのですね。知らなかった。

朝井:僕もたまにはチャレンジしてみようかな。

角田:ただ、新製品って、うっかりしているとすぐなくなっちゃうでしょう? だから、結局定番に戻ってしまったりするのだけど。

朝井:この「小説付きキャラメル」の企画は期間限定ですが、僕自身、子供の時にお菓子のパッケージにいろいろな情報が載っているのを見つけると、とってもワクワクするタイプだったので、きっと楽しんでくださる方も多いのではと思っています。意外なところに小説を見つけてラッキーと思ってもらえると、とても嬉しいです。

角田:おまけが小説で本当に喜ばれるのか、やっぱりちょっと心配ではあるものの(笑)、キャラメルを頬張りながら、物語を読んで、少しでもホッとするひと時を過ごしてもらえたら、それで十分ですね。

取材・文=門賀美央子 写真=下林彩子

 

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書き下ろしショートストーリーが読める
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キャラメル

「キャラメル」をテーマにした1200文字以内のショートストーリーを募集します。エッセイ風、小説風など、形式は問いません。キャラメルひと粒ひと粒が作り出す、日常の中にある心温まるショートストーリーを自由な発想でお寄せください。


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 森永製菓賞 5万円(1名)
 読売新聞社賞 5万円(1名)
 ダ・ヴィンチ賞 5万円(1名)
 森永ミルクキャラメル賞 1万円(5名) 
応募締切
 2015年7月31日(金)事務局必着
※優秀作品は森永製菓のホームページに掲載します。
詳しくは、森永製菓ホームページにてご確認ください。
主催:読売新聞東京本社広告局 協賛:森永製菓株式会社 後援:ダ・ヴィンチ