見た目は女子高生? 空気が読めない? キュートな天才女医が巻き起こす、新感覚医療ミステリー!

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/17

医者には、探偵のような観察眼や推理眼が求められる。患者の話を聞いたうえで、検査をし、可能性のある病気を絞り込んで、診断を下す。正しい診断を下さなくては、治療することもできない。名医というと、手術医ばかりにスポットライトが当てられがちだが、「診断医」だって、重要な役割を担っているのだ。

知念実希人氏著の「天久鷹央の推理カルテ」シリーズ(新潮社)は天才女医を主人公とした医療ミステリーだ。『涼宮ハルヒの憂鬱』(角川書店)のいとうのいぢ氏が描いた表紙のイラストに負けないくらい、このストーリーの女医は可愛らしく、そして、頭脳明晰。その姿は多くの人を魅了し、シリーズ累計発行部数15万部を突破するなど、大きな話題を呼んでいる。最新作『スフィアの死天使』は、時系列では第1巻より前の話、”エピソードゼロ”を描いているため、まだこのシリーズを読んだことのないものも楽しむことができるだろう。天才的な女医と、その部下の出会いを描いた長編メディカル・ミステリーが本書に込められている。

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主人公は、29歳の小鳥遊優。元々、外科医だった彼は、一念発起し、内科医としての修業を積むべく、天医会総合病院総括診断部に勤めることになった。しかし、上司は、どう見ても見た目は高校生という童顔な27歳の女医・天久鷹央。患者を「お前」呼ばわりするなど歯に衣着せぬ物言いのため、人とのコミュニケーションに難がある彼女に振り回されることになる小鳥。しかし、次第に彼女が患者の病気を見抜く能力の高さに驚かされ、彼は鷹央を支える存在となっていく。

「統括診断部」とは、診断困難な患者を科の垣根を越えて診断する部署だ。若手ながら、超人的な記憶・計算能力を持つ鷹央はこの部の部長として、「診断困難」とされた患者に正しい診断を下していく。だが、日本最高峰の頭脳を持つ天才女医の前には「診断困難」とは名ばかりの、おかしな患者ばかりが集まる。宇宙人による洗脳を訴える患者。謎の宗教団体。そして、院内での殺人…。鷹央と小鳥は、この謎にどうやって立ち向かっていくのだろうか。次第に2人が信頼し合っていくさまは、見ていて胸が熱くなる。

医療ミステリーを描く作家というと海堂尊氏が名高いが、本書の作者・知念実希人氏も現役の医師。だからこそ、専門的な医学知識を元として、医学ミステリーを描くことができるのだろう。だが、医療内容は詳しくとも、素人にもわかりやすく説明されているためとても読みやすい。そして、今までの医療ミステリーは手術の能力が巧みな医師を中心に、医局内での闘争を描くものが主だったが、この作品は一味違う。本作品で鷹央は、手術ではなく、「診断」や「推理」によって、患者を救っていく。院内で巻き起こる殺人事件に対しても、持ち前の多様な知識を元に解決してしまう。そうして、空気が読めない態度ばかりとっていた彼女も、多くの一風変わった患者との出会いの中で確実に成長していくのだ。

「素晴らしい指導医がここにいると思っていた。けれど、違ったのだ。ここにいたのは、僕と同じように自らの進むべき道を探してもがいている女性だった。」

こんな愛らしく、賢く、そして、深い悩みを抱えた女医が今までいただろうか。この新感覚の医療ミステリーは、ミステリーファン、そして、ラノベファン、すべてに薦めたい作品だ。

文=アサトーミナミ