暮らしのスペシャリストと選ぶ新しい文学賞―第2回「暮らしの小説大賞」受賞発表会レポート

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/18


 2015年10月9日(金)に、都内で第2回「暮らしの小説大賞」の受賞発表会が行われた。「暮らしの小説大賞」とは、“暮らし”と“小説”をつなぐ存在になるべく、選考委員に暮らしのスペシャリストを迎え、2013年6月からスタートした新しい文学賞だ。

 賞のテーマは、私たちの生活を支えている“衣食住”。人生は、言ってみれば生活の積み重ね。生活なくして人生は語れない。日々の暮らしの大きくても小さくてもかまわない、あんな事やこんな事に対する感情に、真摯に向き合った時に生まれた小説と出会い、世の中に送り出していきたい。そんなユニークな想いから生まれたのが、「暮らしの小説大賞」。

 第2回となる今回は、応募総数148作品。選考委員である、フードスタイリスト・飯島奈美さん、インテリアショップ・オルネ ド フォイユオーナーの谷あきらさん、ブックディレクターの幅允孝さんによる選考を経た結果、大賞には丸山浮草さんの『ゴージャスなナポリタン』が選ばれた。

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 大賞受賞作の『ゴージャスなナポリタン』は、今を生きるアラフォー世代の姿を風変りに描いた作品。「登場人物たちのキャラクターの好ましさ」「クセになる読後感」「暮らしの小説大賞の可能性と幅を広げるに足る作品」という理由で選ばれたという。

 受賞発表会で丸山さんは、帯に入っている「俺の暮らしはどうなるのだろう小説」というコピーに触れ「暮らしの小説大賞なのに『暮らしはどうなるのだろう』という小説を書いたことに疑問があったが、受賞できて『それでいいのだ』と認めてもらった」と受賞の喜びを語り、「小説を書き始めたのは20歳のとき、28年目に受賞できた。こうなったらこれからも書き続けていく」とコメント。創作への意欲を見せていた。

 また選考委員の幅允孝さんは「前回に比べて読み応えがある作品が多かった」「その中でも今回の受賞作は“毒”とは言わないまでも異質な存在感を持っていて、その異質さがリアリティに繋がっているのではないかと思う」とコメントした。

 第3回「暮らしの小説大賞」の応募受付も開始されている。コンセプトは変わらず、生活・暮らしの基本を構成する「衣食住」のどれか一つか、もしくは複数がテーマあるいはモチーフとして含まれた小説であること。締切は2015月11月25日(水)となっている。


<第2回「暮らしの小説大賞」受賞作品>


■『ゴージャスなナポリタン
著:丸山浮草
価格:1,200円(+税)
発売日:2015年10月16日(金)
出版社:産業編集センター
80年代ポップ文学を彷彿させる文章スタイルで、今を生きるアラフォー世代の姿を風変りに描く。普段あまり小説に縁がない人にも読みやすく、情けない主人公の姿に苦笑しつつも、同情しているうちに自分が元気になれる不思議な作品だ。

丸山浮草
1966年生まれ。新潟県在住。新潟大学法学部卒業後、地元デザイン会社企画課長を経て、フリーランスのコピーライターに。
⇒アラフォー世代の心を打つ!「俺の暮らしはどうなるんだ…」小説 【第2回「暮らしの小説大賞」受賞作が決定!】

<第1回「暮らしの小説大賞」受賞作品>


■『ジャパン・ディグニティ
著:高森美由紀
価格:1,300円(+税)
発売日:2014年10月17日(金)
出版社:産業編集センター
うだつのあがらない漆職人父娘の挑戦を、ひたむきにコミカルに描いた青森発“もの作り小説”。

高森美由紀
1980年生。派遣社員。第15回ちゅうでん児童文学賞大賞受賞。著作に『いっしょにアんべ!』(第15回ちゅうでん児童文学賞大賞受賞作/フレーベル館・刊)、最新刊に『おひさまジャム果風堂』(産業編集センター・刊)がある。

<暮らしの小説大賞 選考委員>
飯島奈美(いいじま・なみ)
フードスタイリスト。東京生まれ。CMなど広告を中心に活動。映画「かもめ食堂」、「海街ダイアリー」、連続テレビ小説「ごちそうさん」、「深夜食堂1・2・3」など映画やドラマのフードスタイリングも手がける。著書に『LIFE なんでもない日、おめでとう!のごはん。(1巻、2巻、3 巻)』、『飯島風』、『深夜食堂のレシピ帖』など。

「ありそうでなかった「暮らしの小説」。選考委員に選んでいただいて、嬉しく思います。暮らしものをとても楽しみにしています。「何でもない日」の見過ごしてしまいそうな思いや言葉が大切に感じられるような物語を期待しています。」

石田千(いしだ・せん)
作家、エッセイスト。1968年福島県生まれ、東京都育ち。國學院大學文学部卒業。2001年「大踏切書店のこと」により第一回古本小説大賞を受賞。おもな著書に、『あめりかむら』『きなりの雲』『夜明けのラジオ』『きつねの遠足』『もじ笑う』、最新刊に『唄めぐり』がある。

「壮大な長編にも、愛らしい掌編にも、そこに暮らすひとが書かれています。おなじ電車に乗りあわせても、ひとりとしておなじ生活はありません。百人百様である暮らしは、書き手の個性をいかせる題材です。受賞作となる一冊を、創作の出発点としてくださる書き手との出会いを期待しています。全力で拝読いたします。」

幅允孝(はば・よしたか)
1976年愛知県生まれ。有限会社BACH(バッハ)代表。ブックディレクター。本屋と異業種を結びつけたり、病院や企業ライブラリーの制作をしている。代表的な場所として、国立新美術館「SOUVENIR FROM TOKYO」や「Brooklyn Parlor」、伊勢丹新宿店「ビューティアポセカリー」、「CIBONE」、「la kagu」など。著書に『本なんて読まなくたっていいのだけれど、』ほか。

「くらしと小説。日々の瑣末で大変なあれこれと、小説という所謂フィクションが、どう結びつくものか? 僕もよくわかりません。けれども、物語を読んで生まれた感情が、日常のどこかの側面に作用することだってあると思えるのです。」

⇒「暮らしの小説大賞」の小説情報や応募先はこちら