もしも、ノンフィクション作家がお化けに出会ったら?

文芸・カルチャー

2011/9/5

「ラフカディオ・ハーンの生涯」3部作、『赫奕たる反骨 吉田茂』、最近では『悪名の棺 笹川良一伝』など数々の作品を発表してきたノンフィクション作家、工藤美代子さん。
  
優れた評伝の書き手として知られる彼女だが、その一方で怪談、とりわけ怪談実話の領域でも重要な著作がある。1997年に刊行された『日々是怪談』は著名人による当人の怪異体験の記録として刊行当時から大きな話題を呼んだ。
  
その工藤さんが、幼少時より「お化けさん」とともに生きてきた自らの人生をつづった『もしもノンフィクション作家がお化けに出会ったら』をこの度刊行した。
  
真夜中の病室で耳にした子どもの声、父の邸宅で見かけた男の顔、母が体験する生死を超えた交流など、彼女自身が見聞きしたさまざまな怪異をノンフィクションの手法で描いた傑作だ。
  
「気をつけたのは断定的な書き方をしないこと。彼らが何を伝えようとしているのかわたしにはわからない。霊能者でもないのに決めつけるのはよそうと」と工藤さんは語る。いたずらにセンセーショナルな表現へと走るわけではない。
  
とりわけ注目なのは、川端康成未亡人が語る、川端康成三島由紀夫にまつわる隠されたエピソードであろう。
  
「(怪談実話を書くときには)迷惑がかかりそうな方については職業や年齢を変えています。三島由紀夫に関する話にしても、関係者がご存命のうちは書けなかったですよね」
  
彼女はあくまでもノンフィクション作家としての姿勢を崩さずに淡々と事実をつづる。
  
数々の不思議なエピソードからは、単なる恐怖とは違う滋味溢れる人生の機微がうかがえる。怪談好きはもちろん、優れたエッセイを求める読者にお薦めしたい一冊だ。
  
(ダ・ヴィンチ7月号 幽・怪談通信より)