恋に奥手なあなたが知るべき5つの注意事項とは? 恋愛経験ゼロの理系男子が経験するもどかしさ全開ラブストーリー

文芸・カルチャー

2016/12/14

『リケコイ。』(喜多喜久/集英社)

恋愛経験が皆無のまま成長し、大人になってしまった人間はいざ恋をすれば突拍子もなく恥ずかしい行動に出てしまうことがある。客観的に見れば笑っていられるが、当の本人からすれば人生を左右するほどの大問題だろう。

『リケコイ。』(喜多喜久/集英社)はそんな「若者の失敗」を通じて、新たに「バカヤロウ」を生み出さないために書かれたという体裁の小説だ。恋に奥手な人は、本作から異性と接する際のタブーを学び取ってほしい。そして、それ以外の読者も一生懸命になるほどズレてしまう主人公の姿にいじらしい愛着を感じてほしい。

本作の構造は複雑である。「私」を名乗る人物が、旧知の仲である森の恋愛経験を本にするよう、小説家の喜多喜久氏に依頼したという設定になっている。そのため、読者は「私」の正体は誰なのかを想像しながら読み進めることになる。

しかし、そんなミステリー設定以上に読者の心を掴むのは、森に襲いかかる受難の数々だろう。恋愛経験のないまま理系の大学院生になった森は、研究室にやって来た他大学の年下女子、羽生さんに恋をする。背が高く丸顔でメガネ女子の羽生さんは絵に描いたような理想の理系女子=リケジョ。初心(うぶ)でオタクな森にとってはストライクゾーンの異性だった。

共通のオタク趣味で盛り上がり、研究室では自分にだけ心を開いてくれる羽生さんへの思いを募らせていく森。ついに酒の勢いで告白してしまうが、返ってきたのは思いもよらない答えだった。

「あの……ごめんなさい。私、彼氏がいるので」

しかし、森の恋路は終わらない。失恋のショックを引きずりながらも、聞き役としてノロケ話に付き合うことで、森は羽生さんとの距離を保ち続ける。しかし、露になっていく羽生さんの素顔は森に更なるショックを与えた。親しくなってみると羽生さんは外見とは裏腹に下ネタが大好きで男性経験も人並みに豊富な「モテ女」だったのだ。

それでも、森の心中には常に「あわよくば」の思いがある。飲み会があれば酔った羽生さんと「行為」に至れるのではないかと画策し、研究室の合宿があれば夜に過ちが起こるのではないかと期待を込めてコンドームを買いに走る。報われない努力を重ねる姿がなんとも涙ぐましい。

そんな森の行動から、本作では全ての理系男子(女子)に捧げる恋愛の注意事項を書き出してくれている。

(1)外見で内面を推察し、それだけで相手を知った気になってはならない。

(2)恋愛への幻想はなるべく早く捨て去った方がよい。(後略)

(3)告白の前に、相手に恋人がいるかどうかを確認すべし。

(4)あなたに優しくしてくれる、人当たりのいい異性には、ほぼ間違いなく恋人がいる。あるいは、いたことがある。

そして人生全体に当てはめるべき注意事項が、

(5)精神の衝撃を和らげるために、いついかなる時も最悪を想定すべし。

ここまでくれば想像できるように、森は5つの注意事項全てに反した行動を取ったため、ボロボロに傷つくことになる。最初は他人事と笑っていられた読者も、クライマックスが近づくにつれ同情の念を禁じえないだろう。

森に思わせぶりな態度をとり続け、時には利用すらしているように映る羽生さんは、森の目からすれば小悪魔だ。しかし、実際には普通に青春を謳歌している女子の一人に過ぎない。異性への免疫がないあまり、女性を聖母か悪魔かといった両極端な視点でしか捉えられない森が奥手すぎるのである。

それでも不思議と森への不愉快さはわいてこない。むしろ、森の不器用な恋路が幸せな結末を辿れるよう応援したくなる。それは、嫉妬や劣情といった格好悪い部分もさらけ出して好きな相手に突き進む森の姿が清々しく見えるからだろう。

森の七転八倒な青春にやきもきさせられた後で、読者にはもう一度、恋愛の注意事項5つを読み返してほしい。少しでも当てはまっていると感じた人が、森と同じ轍を踏まないように本作は書かれたのだから。

文=石塚就一