うつ病の「心」の状態とは? 症状以外から説明するうつ病―そもそも「心」イコール「脳」なのか?

健康・美容

2017/2/10

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    『脳はいかに意識をつくるのか 脳の異常から心の謎に迫る』(ゲオルク・ノルトフ:著、高橋洋:訳/白揚社)

 誰にとっても身近な病である「うつ病」。症状は、気分の落ち込み、不眠、罪悪感、絶望感、食欲の異常、自殺念慮などなど。発症の引き金にはストレスが影響しているといわれる。

 うつ病は、脳内の神経伝達物質セロトニンの不足が原因とされるが、まだわかっていないことも多い。例えば、患いやすさに個人差はあるのか、あるとしたらその原因は何か、遺伝と環境のどちらが影響するのかといったことだ。現在は、脳科学からのアプローチがさかんだが、その一方で、「心」イコール「脳」なのかという疑問も健在だ。

『脳はいかに意識をつくるのか 脳の異常から心の謎に迫る』(ゲオルク・ノルトフ:著、高橋洋:訳/白揚社)は、医学上の研究や治療効果を認めた上で、心と脳の関係を考え直した本。「心はいかに脳に関係するのだろうか?」という疑問を元に、精神疾患と診断される人たちと、健常者(精神疾患と診断されていない人たち)の脳を比較。その違いからわかってきた心のありようを紹介している。ここでは、うつ病の人の心の状態を、症状以外から表してみよう。

 うつ病の症状は、冒頭に挙げたようにさまざまだが、個人差がとても大きい。気分の落ち込みは共通するとしても、それ以外の症状の出方は人によってそれぞれだ。だが、同じといっていい部分もある。それは「症状」ではなく、心の向く方向だ。

健常者の心が「外」を向いているのに対し、うつ病患者の心は「内」に向いている。

 著者のいう二者の差は、どこを意識して生きているかの違いだ。どういうことだろうか。もう少し噛み砕いてみよう。私たちは、仕事や勉強など、何かに集中しているときは、目の前の集中している物について考えている。しかし、それ以外の時間、例えばオフタイムや移動時などは何を考えているのだろうか? その注意はどこを向いているのだろうか? その答えが、健常者が自分の外、周囲のものを感じ考えて生きているのに対して、うつ病患者は自分の内について感じ考え生きている、ということだ。これを踏まえ著者は、うつ病は「環境に注意が向けられなくなる」病だと述べている。「環境から切り離され隔離されている」という言い方もしている。

 脳科学に勢いのある今、心という目に見えないものから、つまり感じたり考えたりしている状態そのものから、うつ病を表そうとする著者の試みは、珍しいものであるがゆえに理解されにくい部分もあるだろう。しかし、本書は、うつ病をとらえ直すよいきっかけになるのではないか。患者の周囲の人が、苦しんでいる人の心を理解し、共感を示すことができたのなら、その苦しみは少し和らぐかもしれないではないか。また、著者の態度は、医療の未来にそっと忠告を与えているようにも思う。

 現在、最新の医療現場では、脳内の血流の流れを画像化するなど、新しい技術がさまざまに出てきている。うつ病を客観的に診断できるとして注目されており、治療効果の高まりが期待される。このように、これまで心の病として扱われてきたうつ病が、脳の病として扱われつつある現在、患者にとっては、どう扱われたとしても、状態の改善こそが医者にかかる目的だ。しかしやはり単純な疑問は抱かざるを得ない。心は脳なのか? うつ病は脳の病なのか? もし今後、うつ病が脳の病として目に見える画像やデータをもとに治療していく方向になるとしたら、診察の際、主観、つまり本人の訴えが置いてきぼりにされる恐れはないのだろうか。不調に陥った際に、言っていることを信じてもらえない、仮病扱いされる、といった涙が流れないことを祈る。

 とはいえ、著者は脳画像の比較も注視しており、決して現代医療に喧嘩を売っているわけではない。本書は、画像比較の図版も掲載され、科学的な面でも充実した内容だ。ちなみに、うつ病患者の脳は、健常な人なら脳の活動が低くなる安静状態でも、正中線領域という部位が活発に活動をしているそうだ。著者は、「活発に活動している」=「症状を引き起こしている」、ではないとし、遺伝や身体との関係も含めて慎重な姿勢を見せている。これからも注目していきたい研究だ。

文=奥みんす