【2017年本屋大賞2位】“朝ドラ化”希望の声多数!? 教えることに人生を捧げた、塾教師たちの感動巨編

文芸・カルチャー

2017/5/6

『みかづき』(森絵都/集英社)

限られた時間のなかで、子どもたちに何を教えてあげられるのだろう。欠点のない大人などいないのに、彼らを立派に育てあげることなどできるのか。そもそも教育には完成はないし、正解もない。時代ごと、人ごとに求められるものが違うというのに、教育者は何を理想とするのか。昭和から平成の学習塾業界を舞台に、教育に人生をかけた人々を描いた物語が、いま大きな話題をよんでいる。

直木賞作家・森絵都さんの著書『みかづき』(集英社)は、王様のブランチ ブックアワード2016大賞受賞作であり、2017年本屋大賞第2位を獲得した作品。親・子・孫、三世代にわたって児童教育に奮闘を続ける家族を描き出した感動巨編だ。「実在の人物を扱っているようなリアリティ!」「朝ドラや大河ドラマになってもおかしくない」などと、多くの人が映像化を期待してしまうように展開は鮮やか。紆余曲折を経て変化してきた教育のありかたを塾業界という立場からあたたかく描き出していく。

昭和36年、千葉県習志野市。教員免許はないが、教える才能に富む小学校用務員・大島吾郎は、独自に生徒の補習をおこなっていた。ある時、児童の母親・赤坂千明から「自分の立ち上げる学習塾へ講師として来てほしい」と懇願される。「私、学校教育が太陽だとしたら、塾は月のような存在になると思うんです」。当初は固辞していたが、千明の強い熱意と、強かな策略に絡めとられ、ともに学習塾を運営することになった吾郎。ベビーブームと経済成長にもたらされる、学習塾の順調な成長。一方で寄せられる、「塾は受験競争を煽る受験屋だ」という痛烈な批判。山あり谷あり涙あり。予期せぬ波瀾が襲いかかったとき、ふたりはどのような決断を下すのか。

ひょうひょうとした、のん気な性格の吾郎と、血気盛んな激しい性格の千明。まったく異なる性格を持つふたりは、それぞれ教育に対して胸のうちに熱い思いを持っている。戦中・戦後に国民学校に通った千明のなかには、たえず、公教育に対する憤りがある。学校教育ではなく、それを支える塾として何ができるのか。世の中に求められるように、学習塾を受験へと特化させようとする千明と、“補習塾”としての役割を大切にしたいと考える吾郎。ひたすら塾を大きくしようとする千明の姿勢に吾郎は次第に息苦しさを感じ始める。時代によって求められる教育は違うし、教育者の数だけ、理想とする教育も違う。教育には、どこを探しても正解などない。

「理想理想ってお母さんは言うけど、本当にそんなものがあるんですか。あるとしたら、どこに?」

「常に何かが欠けている三日月。教育も自分と同様、そのようなものであるのかもしれない。欠けている自覚があればこそ、人は満ちよう、満ちようと研鑽を積むのかもしれない」

この物語によって、戦後から現代までの教育を眺めていくと、教育とは常に悲観され続ける存在だという事実に気づく。どの時代も「最近の教育はなっていない」「これではまともな子は育たない」と誰もが憂いている。満月たり得ない途上の月を仰ぎ、奮闘を重ねる教育者。そこに情熱を燃やす人々の熱い思いをこの本から感じとれば、自分が受けた教育の意義にも気づけそうだ。熱い教育論が飛び交うこの大河ロマンをぜひともあなたも味わってみてはいかがだろうか。

文=アサトーミナミ

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