『神撃のバハムート VIRGIN SOUL』リレーインタビュー第3回 脚本・大石静「実写でもアニメでも、脚本を書く上では何も変わらない」

アニメ

公開日:2017/5/26

 現在放送中のTVアニメ『神撃のバハムート VIRGIN SOUL』。スマートフォンゲームを原作に、バハムートと呼ばれる伝説の存在を巡る物語を描いた『神撃のバハムート GENESIS』から10年後を舞台にした本作は、変わらぬクオリティの高さ、そして新たな主人公・ニーナによるフレッシュさを見せてくれている。

 ダ・ヴィンチニュースでは、そんな『神撃のバハムート VIRGIN SOUL』のスタッフインタビューを連続で敢行。第3回は脚本家の大石静に話を伺った。NHK朝の連続テレビ小説『ふたりっ子』や大河ドラマ『功名が辻』を始め、『セカンドバージン』、『セカンドラブ』、『家売るオンナ』など数多くのドラマ作品で知られるなど実写畑で活躍してきた彼女が、初めてのアニメ作品、初めてのファンタジー作品を手掛けたことでわかったこととは――。

脚本とできあがったアニメとのズレを楽しむ

――オファーを受けた経緯は?

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大石:『神撃のバハムート GENESIS』の音楽を担当していらした作曲家の池頼広さんとは、以前にドラマを2本(『ギネ 産婦人科の女たち』『クレオパトラな女たち』)ご一緒していて仲良しだったんです。それで彼が私の脚本を気に入ってくださっていたみたいで、ずっと「ほかのドラマでも一緒したい」と仰ってくれていました。そうしたら『VIRGIN SOUL』が動き始めた時に彼が「脚本は大石がいいんじゃないか」と推薦してくださったみたいで。

――話を聞いた時の第一印象は?

大石:なんだかわからないけど、池さんが一緒にやろうとおっしゃるならやってみようかな、と(笑)。池さんと一緒にお仕事ができる機会というのもそうそうないので、この機会に乗ってみました。ただ、その前に監督のさとうけいいちさんとは池さんのお宅で挨拶したことはあったんです。飲み会みたいな場でほかにも色んな人がいたけど、さとう監督はすごく押し出しが強いので印象的でした(笑)

――オファーが来た時、『VIRGIN SOUL』という作品はどの程度固まっていたんでしょう。

大石:大体の話の構成は、プロデューサーのふたり(竹中信広氏、大塚学氏)が考えていてくれていました。これまで、私はオリジナル作品にこだわってきたし、何かの作品の第2シリーズから参加するということはありませんでした。ただ、初めて会った時に、このふたりの頭の中には相当なものがあると感じたし、この人達について行くといいかも、という直感はありました。

――「GENESIS」はご覧になったのでしょうか?

大石:やれるかどうか、第1シリーズを観てみないと決意できないと思って『GENESIS』のDVDと脚本を頂いたんだけど、さっぱりわからなくて(笑)。1回観てもわからないから「私の頭が悪いのかな」と思いながら2回観てもわからず……「これは私に向いてないかな」と不安になりました。でも、さっきも言ったけど、プロデューサーのふたりが、若くて美しくて、なんかすごくいいんですよ(笑)。それで「絶対にこの人達とやったほうがいい、その方が私の運も開ける」と思って、その一点で引き受けました。

――「『GENESIS』がわからない」というのは具体的にはどの辺りでしょうか?

大石:台詞は面白いし、ギャグ的なところは私なんかより断然冴えていてキャラも立っているんだけど、何を伝えたいのかわからなかったんです。だから『VIRGIN SOUL』では物語をわかりやすくして、かつ作品の幹となる哲学をはっきりと出さなければと思って書きました。

――6話は特に恋愛色が強く、大石さんぽいなと感じました。

大石:(設定を説明する)1話あたりは、自分で書いていてもまだよくわからない感じだったけど(笑)、それ以降は人間ドラマになって、5、6話は大分見やすいですね。私の友達や同世代の、普段はアニメを観ない人たちも今回は観てくれていて、話が段々とわかってきて「面白い」と言ってくれています。

――大石さん自身のアニメを観ての印象は?

大石:アニメをやるのは初めてだからわからないんだけど、すごい絵なんでしょう?

――すごいです(笑)

大石:周りの人も「アニメってこんな凝ったことをやるのね」と言ってくれています。ただ『VIRGIN SOUL』だけではなく、これはドラマでも映画でも舞台でもどんな作品でもそうですけど、私が書いた意図と最終的にできあがるものにはズレがあって。それは誰かが演出し、誰かが演じ、誰かが絵を描き、音楽も入るから。そのズレを、ガッカリしたり楽しんだりしながらドキドキ観るのが楽しいです(笑)

――特に印象に残っている“ズレ”は?

大石:たとえばアザゼルのキャラです。アザゼルは『GENESIS』で絶望したあと、もう1回人間に戦いを挑む孤独な生きかたをしています。『GENESIS』から10年の時を経て、絶望を知った大人の男に成長しているつもりで書いたのですが、アニメになって絵や声や動きがつくと第1シリーズと変わらぬやんちゃな兄ちゃんになっていて驚きました。ショックも受けました。しかし「あの台本から、監督と声優さんはこういう答えを出したんだ」と思い、今は納得しています。

――逆にイメージと合っていたのは?

大石:ニーナに関しては最初からかわいくて、おっぱい大きくて……と、プロデューサーに言われていたのでそんなにブレていませんでした。あとはシャリオスの大人な感じ、リーダーとしてすべてを備えている感じはよく出ていると感じます。今はアザゼルに振られて、シャリオスを愛している感じかな(笑)

『VIRGIN SOUL』は大河ドラマを書いた時と同じ感覚

――普段、大石さんはアニメをまったく観られないのでしょうか?

大石:ほぼ観ませんね。子供の頃から実写の方が好きで、マンガより小説、アニメよりドラマで育ちました。でも最近では『君の名は。』は話題になっていたから観たし、『この世界の片隅に』はプロデューサーの真木太郎さんが私の脚本の師匠(宮川一郎)の息子さんなので観ました。あとはジブリ作品がテレビでやっていれば観るくらいです。

――そうした、あまり知らないジャンルの脚本を手がけるのはひとつのチャレンジだったと思いますが、実写作品の脚本を書くのとどういう違いがありましたか?

大石:何も変わらないです。物語を紡ぐ、人間を立体的に描くという点ではアニメも実写も同じなので。ただアニメは絵なので、どこにでも行けるわけですよ。これがドラマの場合、予算の都合もあっていきなり海外には行けない(笑)。しかもアニメなら人がバタバタ死んでもあまり抵抗がないし、大河ドラマの脚本を書いた時と近い感覚です。時代劇だと人がバンバン死んでも、相当な裏切りがあっても何となく見られる、でも現代劇だとそういった要素は少しきついじゃないですか。そういう点ではアニメは自由度が高いと感じました。でも、大事なのは登場人物の気持ちを立体的に描くということなので、アニメだろうと実写だろうと、ファンタジーだろうと現代劇だろうと脚本家が担うべき仕事は変わらないと思います。

――確かに、たとえばニーナの見た目や設定はともかく、心情は普通の女の子ですね。

大石:そうなんです。ファンタジーの部分は絵柄の人たちが担うことであって、私が担うのはそこじゃないなって。脚本でもト書き(脚本における台詞以外の、登場人物などの様子を示す説明部分)は大塚さんや竹中さんが直して格好いいものにしてくださったので、私はリアルな台詞にすることに注力しました。

――お話を伺っていると、3人でかなり綿密に打ち合わせされたと感じます。

大石:このふたりが優秀だから、私は「は……そうですか」と言っている内に進んでいっちゃった感じです(笑)。毎週Cygamesさんに来て、随分と一所懸命に打ち合わせをしていたのを覚えています。「意外に導かないと駄目なんだな」「もっとできると思ったのに」とガッカリされているかも、と不安になった時期もありました。

――制作体制的な面で、アニメと実写で何か違いがありましたか?

大石:どうでもいいことかもしれないですが、一番違っていたのは、実写ドラマの場合はオールスタッフ&キャストの顔合わせみたいなのが最初にあって、「こういう人たちでやるんだ」とわかるんですけど、今回はそういうはっきりしたスタートがなかったこと。どこから本格的に始まったのか、どんな人が作るのかわからないまま作業を続けていたのが少し寂しかったです。打ち上げはあるかもしれないけど、「はじめまして」「さようなら」になってしまうわけでしょ。今日、インタビューを受けても随分前の話だなと感じるし、まだまだみなさん作業されていると思いますが、今どのお話のどんな作業をしているのかわからないので不思議です。

第4話のあのシーンはギャグではなかった

――『VIRGIN SOUL』からの新キャラクターであるニーナとシャリオスの印象を教えてください。

大石:シャリオスは完璧でしょ、理想の男だと思います。美形でカリスマ性があり、統率力も孤独に耐える力もあって、清濁併せ飲む力がある。それに目先のことではなく、いつも目標を見据えているというブレなさ。そういう男は現実にはいなくて、アニメにしかいないでしょ。ニーナは思いやり深く、平和を求めている女の子で。このふたりは素敵な組み合わせだと思います。

――ほかに印象的なキャラクターはいますか?

大石:騎士団のアレサンドという、現時点ではいてもいなくてもいいような、たまに登場する若者がいるんですけど。ネタバレになるのであまり深くは話せませんが、この人の人生は、なんというか愛しいですね。あとはムガロも、ここからすごく人間くささというか欲が出てきていいです。

――先日、大塚さんに話を伺った際に、大石さんを起用してよかった点として台詞回しの新鮮さを挙げられていました。たとえば4話のニーナの「ギュってして!」などですが、そういった台詞はどのように生まれるのでしょう?

大石:一応、台詞が上手いと思われたおかげで、これまで脚本家としてやってこられたと思うんですけど、あまり考えないで出てきた台詞のほうが褒められてきたんですよ。「う~ん」と捻って出したものは無理があって、するするっと出てきたもののほうが必ずいい。「ギュってして!」は、アザゼルの「俺に抱かれて竜になれ!」という言葉が先にあって、そこに向かって組み立てている中で出てきた台詞ですね。

――あそこはギャグタッチで面白かったです。

大石:私は、ギャグっぽく書いたつもりは全然なかったんです! でもあなたがあれで面白かったと思ったのなら、それでよかったのでしょう(笑)

――今回、初のアニメ作品でしたが、またオファーがあった場合は引き受けますか?

大石:もちろんです! 今回放送前には「これがオンエアされたらいっぱいオファーが来ますよ」とプロデューサーの大塚さんに言われていたんですが、どこからも来ないんですけど(笑)。もちろん話があったらやります、と書いておいてください。

――わかりました。最後に、今後特に注目して欲しい1話を教えてください。

大石:どの話も一所懸命書いているので、全部愛しいんです。「上手くいかなかったな」という所もそれはそれで愛しいし。それでもあえて言うなら最終話のラストシーンかな。6話でニーナとシャリオス、じゃなくクリスがダンスを踊るシーンも素敵ですよね……深くは言えませんが、みなさん絶対最後まで観てね(笑)

取材・文=はるのおと

神撃のバハムート VIRGIN SOUL

アニメ「神撃のバハムート VIRGIN SOUL」公式サイト

<イントロダクション>
ここは、《人》《神》《魔》あらゆる種族が入り混じる神秘の世界ミスタルシア。

バハムート復活による世界崩壊を免れてから10年───

新たな《人》の王は《神》の神殿を襲い《魔》の国を攻め落とした

壊滅寸前だった状況からの復興と更なる発展
王都は《人》に富をもたらす

王都復興の糧として奴隷となる《魔》
消えゆく信仰心により力を失った《神》

均衡を失っていく世界で《人》《神》《魔》それぞれの正義が交錯する―――

<スタッフ>
原作:Cygames
制作:MAPPA
監督:さとうけいいち
脚本:大石静
キャラクターデザイン・総作画監督:恩田尚之
美術監督:中村豪希
音楽:池頼広
撮影監督:淡輪雄介
VFXスーパーバイザー:森川万貴
エフェクトアニメーション:橋本敬史
色彩設計:三笠修
CG監督:伊藤敬之
編集:廣瀬清志
音響効果:勝俣まさとし

<キャスト>
ニーナ・ドランゴ:諸星すみれ
シャリオス17世:梅原裕一郎
ファバロ・レオーネ:吉野裕行
カイザル・リドファルド:井上剛
アザゼル:森田成一
リタ:沢城みゆき
バッカス:岩崎ひろし
ハンサ:森久保祥太郎
ジャンヌ・ダルク:潘めぐみ
ムガロ:???
ソフィエル:坂本真綾
ディアス・バルドロメウ:間宮康弘
アレサンド・ヴィスポンティ:小野賢章

© Cygames/MAPPA/神撃のバハムート VIRGIN SOUL