晩年セザンヌ超推せる!? 意外と深い“印象派沼”とは?

文芸・カルチャー

公開日:2019/11/26

『5分でわかれ!印象派』(須谷 明/KADOKAWA)

 日本で人気が高く、毎年、大規模な展覧会が開催される「印象派」。ふわふわでキレイで、なんとなく西洋絵画の代表っぽい感じ…というイメージがある画派だが、そこに属する画家たちはキャラが異様に濃い、というのも愛好家には知られるところ。ワガママすぎてサイコ感さえあるモネ、泣きながら「おっぱいを見せてください」とモデルに懇願したルノワール、規格外な偏屈男・ドガなど、その人物像やエピソードは、絵画の美しさとはにわかにリンクしないほどだ。

 須谷明(すごくあき)氏は、コミック『5分でわかれ!印象派』(KADOKAWA)まで出してしまったほど、印象派の“沼”に見事にハマった一人。そもそもは、「アートのわかりたくなって本を読もうと思って、まだ理解できそうな印象派から手を付けた」のが始まりだが、持ち前の探求心で本や論文を読み漁り、ついにはマンガ化…となっていたという。

 そんな須谷氏にとっての印象派の魅力は、やはり画家たちやそのエピソードにあるという。

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 「印象派の魅力、実は私もよくわかっていないんです。初めは本当に作品の価値がわからなくて、“なんでこの絵が何億円もするんだろう?”と疑問に思って、それを知るために本を読み始めました。その甲斐あって、今ではとても楽しく鑑賞できているんですが……私の鑑賞の仕方って、作品そのものを見ているのではなくて、作品を通して彼らの人生、物語を見ているんです。印象派の画家達って本当にキャラが濃くて、作品ひとつひとつにおもしろい逸話があるんですよ。それを読み取るのが楽しくて、いつの間にか印象派の“人物沼”にハマってしまいました」

 特に好きなのは、各画家の性格がわかるエピソード。それは『5分でわかれ!印象派』でも数多く描かれている。

 「たとえば、モネとルノワールは一時期同居していたんですが、すごい貧乏暮らしで、モネはメシがまずいだのなんだの文句ばっかりなんです。でもルノワールは、後年思いかえして“あんなに幸せな日々はなかった”って言っていて。もう、それがかわいくて(笑)。あと、画家のセザンヌと小説家のゾラは幼馴染なんですが、疎遠になってもお互いめちゃめちゃ気にしあってるところとかもかわいいですね。特に晩年セザンヌ、超推せます」

 各画家の人物像を知れば知るほど深まっていく“沼”。ただしそれは少し気がかりな部分でもあったという。

 「人物像の読み取るのは楽しいのですが、それって、作品自体の魅力を理解できていないってことじゃないかと思っていて。それがちょっと後ろめたかったんですが…でも最近は、それはそれでアリなんじゃないかな〜と思い始めました。現代の芸術鑑賞はちょっと堅苦しすぎるかなって思うんです。美術館に行くとみんな静まりかえって難しい顔してるし。もっと気軽に楽しく、例えば私の本を読んで“セザンヌの作品はわかんないけど、この晩年の逸話がかわいすぎるから興味出た!美術館行ってみよう!”なんて思ってもらえたらうれしいな、と思います」

 タイトル通り、『5分でわかれ!印象派』は印象派の成り立ちやその革新性、各画家の作風など解説しており、わかりやすいマンガ版「印象派の教科書」として読めるようになっている。しかし、沼にハマった須谷氏だけに、各画家への思いがあふれ、教科書には載っていなさそうな逸話がふんだんに掲載されている。

 いまや巨匠として扱われるモネやルノワールたちも、若かりし頃はアカデミズムに反抗した不良画家。自分たちで展覧会を開いたが、その斬新さゆえに評価されず、評論家に「印象には残るね」と罵られたのが「印象派」の始まりとされている。次に展覧会に行く際には、須谷氏のような “教科書通り”ではない視点も交えると、また違った楽しみができるのかもしれない。

【著者プロフィール】
須谷 明
ネット上で歴史を題材にした創作漫画を描いたり描かなかったり。好きな幼馴染は西郷と大久保