「続・かっこいい老い方」内田 樹×名越康文×橋口いくよ 電子ナビスペシャル鼎談

橋口 “鳥類化”そして“和”に加えて、もうひとつだけあるかも！　私は、鹿児島出身なんですけど、奄美大島とか、あと沖縄のほうに行ったりすると、襟ぐりの伸びたＴシャツにギャザースカートはいて、髪を短く切って真っ黒に焼けたおばあちゃんとかが野菜持って歩いてたりするのを見かけます。あれは、可愛い！

内田　あれは収まりが良いね。歳をとって可愛くなりたいなら、南方がいいね。

橋口　鳥類的な焼け方やセクシーさはあわなくて、和服をいつも着るのは面倒だし、和服用の所作も無理だって人にはそれがある！

名越　面倒くさがりさんは南方に。

内田　そうね、老後は沖縄に行って、Ｔシャツ着て短髪で、歯は真っ白で真っ黒に日焼けして、手に野菜。

名越　そのラインで行くと、バリのおばあちゃんもいいですよ。バティックみたいな布巻いてるだけとか、アロハシャツみたいなの着てるだけなんです。シンプルな格好で、髪にしゅっと簪みたいなの挿して。めっちゃいいんですよ。

内田　日本のおばあちゃんと何が違うんだろうなー。

名越　ねえ。

橋口　日本でも、今の南の話みたいに、そうやって田舎に行ったりすれば、ひとつの型みたいなのがあるんだろうけど、特に都会での老い方は難しいですよね。便利かもしれなけれど、居心地はわからない。

内田　都市は、たぶん本質的に老人を受け入れないからでしょう。都市は老人仕様に設計されていないもの。都市の活動性と老人のたたずまいは合わないよ。

名越　そこでなんとかファッションや振る舞いをあわせようとするから、無理が出てくるし、やるほうも苦しいですよ。

内田　商店街に行くと、高架下なんかにまるごと中高年女性専用の店ってあるじゃない。値段も信じられないくらい安いんだけどさ。これ誰が着るんだろう……と思っていると、あの格好してる人、けっこういるんだよね。あれ見てると、日本の中高年の人たちに提供してる服に問題があると思わない？

名越　謎のカーディガンや、もんぺみたいな感じのズボンとか、テロリンとした服たちですよね。あれは何を目的としてるんですか。

橋口　流行を追い掛けなければならないって思って必死になる年頃があるように、ある年齢になったらあの手の服を着なければならないっていうような身近な幻想があるんですかね。みんなあれだし、ああしなきゃっていう。女性は仲間はずれが怖いから。

名越　そうか。反発を感じさせないようにしているのか。

橋口　同じようにしていれば、浮かないし、女性同士の揚げ足の取りあいに巻き込まれない。

内田　なるほど。あれを着てると仲間から攻撃をされないってことか。そう考えると、おばさんやおばあちゃんだけじゃなくって、若い子たちが着てる服も、結局は仲間に揚げ足を取られないような格好なのかな。

名越　そうでしょうね。

橋口　怖い！　若いころから長年、揚げ足やツッコミを入れられないようにして生きて行くうちに、心くじけて、この日本から女性の素敵な老い方のロールモデルになるはずだった人たちが消えていたのか！