NEWS加藤シゲアキ「自意識まみれが吹っ切れた」最新作『オルタネート』刊行イベントで作家・宇佐見りんとSNSを語る

文芸・カルチャー

更新日:2020/11/27

加藤シゲアキ・宇佐見りん
(c)新潮社

 加藤シゲアキ(NEWS)が11月21日、最新作『オルタネート』(新潮社)の刊行を記念して、作家の宇佐見りん氏をゲストに迎え、東京都内でトークイベントを開催した。

『オルタネート』は2020年1月号から9月号まで『小説新潮』(新潮社)にて連載された作品。「オルタネート」という架空の高校生限定のマッチングアプリを舞台に、SNSに翻弄されていく若者たちの心情を繊細に描く。SNSは「自由になれる一方縛られることもある」、「皆と一緒であるべきという同調圧力と、人と違っていたい気持ちがぶつかっている」と表現。アンバランスさが同居する10代の心情を、自分自身のさまざまな内面と重ねながら執筆した加藤の力作だ。

 トークイベントのゲスト宇佐見氏は現在大学生、加藤の「いま一番気になる作家」として指名された。『かか』(河出書房新社)で今年の三島由紀夫賞を最年少で受賞、最新作『推し、燃ゆ』(河出書房新社)では、アイドルのSNSの炎上をテーマにして話題となっている。

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 トークイベント前の囲み取材では、本作への思いやNEWSとしての活動についても思いを語った。

30代の今、高校生を書く意味

 本作『オルタネート』は執筆以外の部分にも積極的に参加したと話す加藤。「装丁ではアプリっぽいアイコンをホログラムで入れるなど、アイデアを出しました。また、自分で企画書を書いて本のプロモーションビデオも作り、プランナーという形で(単行本化の)プロジェクトにも参加しています」。常田大希(King Gnu)率いるクリエイティブ集団・PERIMETRONとプロモーションビデオでコラボし、より小説の世界観を深めている。

加藤シゲアキ/オルタネート (Official Promotion Video)

 マッチングアプリをテーマにした理由について聞かれると、NEWSのメンバー小山慶一郎と共に出演しているテレビ番組「NEWSな2人」で、マッチングアプリを題材に扱った回がきっかけとなり興味を持ったという。「高校生という狭い枠の中で、趣味の合う人と出会いたい、男の人と付き合いたい、など色々な感情があって、自分に合った人を選べるアプリがあったらどうかなと。3人の主人公を通してどう展開していくのかが見どころだと思います」と述べた。

 高校生を主人公にしたことについては「今まで高校生のことを書いたことがなく、30代くらいになると、高校生の頃の色合いが落ちてくるかもしれない。書くなら今かとチャレンジしました」とコメント。当時のことを忘れてしまうか聞かれると「実際書き進めると、意外と自分の高校時代を鮮明に思い出してきましたね。ただ、僕が高校1年生のときにNEWSとしてデビューして、学校は授業だけ出てすぐ仕事に向かっていたので、あまり深い思い入れがなくて…。その分、ここで理想の高校生活を描いたり、自分が楽しめなかった分、追体験をするような思いも込めて書きました」と語った。

関ジャニ∞・丸山のドラムセットを参考

 さらに執筆するにあたり、記者から取材について聞かれると「関ジャニ∞の丸山(隆平)くんが、最近ドラムセットを買ったと聞いて見に行きました。そのときにチューニングに来ていた専門家の方がいらして、音の響き方を感じたりドラムに対するイメージもわいてとても参考になりました」と、グループの枠を超えた仲の良さも垣間見せた。

 加藤の本は全部読んでいるという丸山。加藤が『オルタネート』をプレゼントすると伝えるも“俺は買う!”と言ったため、発売されたことだけ伝えているといい、「きっと買ってくれると思います」とうれしそうに語った。

 登場人物については「どのキャラクターも愛していて自分の分身のような気持ちです。正直照れくさいところもあるし、告白するような気持ちで書いているシーンもあります」とほほ笑む。

 本作の展開は「オルタネートというアプリと主人公が3人。オルタネートが大好きな人、やりたくない人、やりたくてもできない人、その主人公の性格だけ決めて、あとは何も決めずに書き始めました。それぞれの高校生が生きているような、自分自身の分身がいるような気持ちでもあるので、今回は私の物語です、とコメントさせてもらっています」と述べた。

 NEWSのメンバーが本作やこれまでの著作を読んでいるか聞かれると「増田くんは1回も読んでないと思うけど、家に飾ってくれてるんじゃないかな。小山くんはまだ渡せていないけれど、毎回ツアー中に読んでくれていて、今回はツアー自体がなくなってしまったので読む機会をなくしたと言い訳していました(笑)。来年でもね、読んでくれたらと思います」。

 配信ライブやメンバーについて話が及ぶと「ライブは4人4部作でやる予定だったけれど、メンバーの退団もあって迷いました。しかし3人でも一度作ったものは届けるべき、待ってくれているファンの方もたくさんいるのではと話し合い、昨日もリハーサルを3人でしてきたんですよ」と明かす場面も。

 今年の総括を聞かれると「早いですね!(笑)」と突っ込みながらも「一筋縄ではいかなかったし、すごく自分自身を見つめなおす時間だったと思います。自分の作品を読み返したし、アイドルとしての活動ができなくなったことも含めてすごく悔しい感情もあります。ただ、悔しいと思っているということは、やりたいんだなとも改めて思えたし、当たり前が当たり前じゃなくなった分、大事なものが見えた1年。これから先、やる気のある1年になったと思います」と気持ちを込めた。

SNSが生きているイメージ

加藤シゲアキ・宇佐見りん
(c)新潮社

 イベントではゲストに宇佐見りん氏を迎えてトーク。

 加藤が「『かか』で三島由紀夫賞を受賞されて19歳(当時)でここまで書かれたら、もう僕は小説書かなくてもいいかな、と絶望するくらいおもしろかったですね!」と熱量高めに語ると、宇佐見氏は「まさか自分にゲストのオファーが来るとは本当に驚きですし、いまだに信じられない」と謙遜しながら「(『オルタネート』は)ディテールが本当におもしろい。オルタネートというアプリを通して…どこまで話していいんだろう」とネタバレしないように注意しながら答えた。

 オルタネートというアプリについて加藤は「自分の情報を開示すればするほど精度の高い、自分に合った相手が見つかるもの。途中で遺伝子の情報も組み込まれて、遺伝的な相性も入っていきます」と語ると、「そこが本当におもしろいと思う。SNSは使うものだというイメージがありましたが、『オルタネート』自体が自分と対峙する関係として描かれていて、用具ではなくSNSが生きている感じがおもしろい」と宇佐見氏が感想を述べた。

 SNSを題材に小説を書いた2人だが、それぞれ思いは異なるようだ。加藤は「僕が学生の頃は、今ほどSNSがさかんではなかった。SNSは現代劇を描く上で避けては通れないけれど難しい。でもSNSを書くやり方はまだまだあるし未来の可能性もあると思う」と発すると、宇佐見氏は「私は今21歳ですが、チャレンジというより中高生の頃からSNSがだいぶ浸透していました。衣・食・住とSNSという感じ」とサラッと語る。するとすかさず加藤が「小説界の第7世代みたいな感じだけど(笑)、でもあくまで人間が使うツール、容器なのがSNSな気がする」と語った。

 互いの作品について印象的だったシーンに話が及ぶと、宇佐見氏は「プロテスタント系の高校に通う学生たちが、頭に聖書を乗せて急な雨をしのぎながら教会に入っていくシーンが印象的でしたね。本来敬虔なキリスト教徒にとって神聖な聖書が、生徒の中では日常化している。教会で礼拝を聞きながら、オルタネートの新しい情報を探すとか、ギャップもありました」と語ると、「聖書を頭に乗せていたのは僕の実体験です(笑)」と加藤が明かす。「彼女、凪津(=なづという名の女子高生、3人の主人公のひとりでオルタネートを信奉している)にとってはオルタネートが神で、宇佐見さんの『かか』はいろいろな人を神と見立てていますよね。信仰は色々作り出せるし、『推し、燃ゆ』では推しが神様ですよね。何を信仰しているか人間を表す上でとても大事な部分だと思う」と語り、「僭越ながら、いい対談相手を選んだ」と自らを褒めつつ笑いを誘った。

色眼鏡、自意識まみれが吹っ切れた30代

 作品を書き上げる期間について、「初稿で4カ月です。直しを入れたらもっとありますけど、早いんです僕(笑)。長い下書きだと思って、まず書きます」と加藤が話すと、「これ(『オルタネート』)を4カ月と聞くと辞めたくなる(笑)」と、芸能活動と併行しながら書き上げる加藤の執筆スピードに、宇佐見氏が驚かされる一幕もあった。

 推しのアイドルが炎上する話を書いた宇佐見氏の作品、『推し、燃ゆ』に話が及ぶと、加藤は「僕は推してもらう側、『推し、燃ゆ』については気が気じゃない、(炎上して)ごめんという気持ちになる」とアイドルゆえの気持ちを吐露。すると宇佐見氏は「この作品を読んで“ごめん”と言われたことが初めてです」と笑った。

 また、加藤はデビュー作『ピンクとグレー』(KADOKAWA)を出版した際には、恋愛ものを描くのは恥ずかしいと語っていたが、今作で恋愛シーンにも挑んだ理由として、「高校生の恋愛は今しか書けないと思ったんです。高校生の恋愛をはじめ、自分がそういったものを読んでこなかったし難しいと思っていた。でも自分で書いているうちに色々な小説を愛せるようになってきて、30歳をこえたくらいに、高校生を題材にするのっておもしろいかなって思ったんです。20代の頃は、“ジャニーズが恋愛小説を書いた”という色眼鏡に耐えられなかったし自意識まみれでしたが、今はいい作品はいいって吹っ切れたし、若い方も本を読む機会があったらいいなと思いました」と、本音を覗かせた。

『オルタネート』のラストシーンで描かれる、運命に翻弄されながらも立ち上がっていく姿について聞かれ「高校生の頃のスピード感ってあったと思います。やっぱり社会が狭いし、SNSでもうひとつの社会を持ってそれが生きやすくもある一方、これこそが本当の自分だと思ったら、いろんな自分が分裂していくようなところもある。それがあっても構わないけれど、本当の自分がどう向き合っていくかというところに、オルタネートに関していうと、そんな感覚を味わいながらも“まぁ色々な自分がいてもいいじゃん”と軽やかな感じで読んでもらえるといいですね」と加藤。「長編で自分が感情移入した後に、最後はふわっととろけていくような終わり方ですが、世界を封印して自分自身にも広がりを持たせてくれるような終わり方だったなと思います」と宇佐見氏も述べた。

小説を書くなら感情を全部乗せ!

 ここで観客として参加している書店員から2人への質疑応答タイムに移った。

 小説家志望の学生に対してアドバイスを求められると、加藤は「まずは書き上げること。(書く)体力を維持するのに大切なことは、初期衝動と熱量。これを書きたい! と思ったときの衝動とその火種を見つけること。火種が見つからないときは、35歳くらいまでは頭の中だけでは見つからないのでたくさん旅に出ろと言われましたね。この時代は難しいかもしれないけど、思考の旅でしょうか」。

 宇佐見氏も同様に「まず通して書いてみること、この感情は自分にしかないんじゃないかとか、自分の中でくすぶっているもの、感情を全部乗せっていう気持ちで書いてみたらいいと思う」と答えた。

 また、今2人が高校生でオルタネートがあったらどんな活用をするか? と質問されると、宇佐見氏は「私はアカウントだけ作ってあまり触らず、だんだん世間に馴染んできたときにやってみます。LINEを始めたのも中3のときで、クラスでも遅かったんですよ」と語ると、「中3のときにLINEがあったのが衝撃でしたけど」と加藤は笑いながら、「僕もSNSをやっていないし、アカウントだけ作って様子みているかもしれない。冷めた高校生だったので、好きな本をひとりで読んでいたいタイプでした。でも本好きのコミュニティがあったら、もっとたくさんいい本に出会えたし幸せな人生があったと思いますが、そこに手を出す勇気もないまま高校生活を終えるような気もします」。

取材・文=松永怜