芥川賞受賞後第一作『くるまの娘』宇佐見りんインタビュー!「人生って…取り戻せるものなんて、どこにも、ない」
発行部数52万部を超えた芥川賞受賞の話題作『推し、燃ゆ』から約1年半。宇佐見りんさん待望の新作長編『くるまの娘』が刊行された。『文藝』掲載時から大きな反響を呼び、著者最高傑作との声も……。新たな衝撃作を生み出した宇佐見さんに、新作、そして小説を巡って、お話を伺った。
(取材・文=立花もも 写真=石田真澄)
〈「しんじゅうする。こんなんなったら、もう、それしかない」 叫びは、喉ばかりでなく、見ひらかれた目から、両耳から、髪の毛先から、ほとばしった。〉――唾液や洟水、涙で濡れたハンドルを震える手でつかんで、家族の乗る車を暴走させる母。 〈「なんで生きてきちゃったんだろうな」〉――娘を助手席に乗せ、やはり震えるこぶしでハンドルを握りしめながら、誰にも言えなかった想いを吐露する父。 家族の話を書こう、と思った宇佐見さんの脳裏に浮かんだのは、そんな、車中の場面だった。
「その2つの場面は、かなり初期からイメージというよりは文章で浮かんで、書きだしていました。今作は“くるま”なんだなというのもそのときから決まっていて、場面を起点に物語を紡いでいった感じで…