『元彼の遺言状』続編が文庫版で登場! ぶりっ子なニューヒロイン・美馬玉子の活躍を描く『倒産続きの彼女』

文芸・カルチャー

公開日:2022/10/13

倒産続きの彼女(宝島社文庫)
倒産続きの彼女(宝島社文庫)』(新川帆立/宝島社)

 第19回『このミステリーがすごい!』大賞を受賞し、大ヒットを記録したリーガルミステリー『元彼の遺言状』。「自分を殺した犯人に、全財産を譲る」という奇妙な遺言をフックに、大金を狙う登場人物たちの思惑が交錯し、予想もつかないラストへ収束していく展開が見事な作品だった。作者である新川帆立さんは同作で人気作家へと上り詰め、立て続けに新作を発表している。

 そんな新川さんのデビュー2作目である『倒産続きの彼女』が、このたび文庫化された。

 謎に満ちた遺言状の行方を追った『元彼の遺言状』に続き、『倒産続きの彼女』でもまた不思議な出来事が描かれる。本作の謎の中心にいるのは、「会社を倒産へと導く女」。彼女が過去に勤務した3つの会社はすべて倒産しており、不正行為をして潰して回っているのではないかと噂されている人物だ。しかし、一体どうやって……?

advertisement

 その不可解な事件に迫る主人公を務めるのは、弁護士の美馬玉子。どうすれば男性に愛されるのかを熟知しており、一般的に“ぶりっ子”と称されるようなタイプの女性だ。シリーズ第1作の主人公・剣持麗子とは真逆のタイプでもある。

 しかし、玉子がどこか嫌われるヒロイン像かというと、決してそうではない。たしかに計算高いところはあるし、ゆるふわな雰囲気を醸しつつも内心毒づく様子などはなかなか癖が強いのだが、それでも憎めない。それは玉子が苦労人であることが徐々に明らかにされるからだ。祖母とふたりで暮らし、恵まれた環境ではないものの努力を重ね、弁護士になった。常に周囲の顔色をうかがい、愛されキャラを演じる背景にあるのは、ある種の劣等感。そんな玉子のバックボーンを知ると、憎めないどころか一気に応援したくなってしまう。

 しかも、根性は人一倍あるところも魅力的だ。高飛車で強気な剣持麗子と比較すると、玉子はどうしても“弱い女性”に見えなくもない。けれど、麗子が蜂のように刺すタイプだとしたら、玉子は蝶のように舞うタイプ。華麗に舞いながらも、虎視眈々とチャンスを狙い、果敢に攻め入る。そう、玉子も“強い女性”なのである。

 そして何より盛り上がるのは、玉子と麗子がタッグを組み、真相に迫っていく姿だろう。最初は麗子に対して苦手意識を持っている玉子が自分の弱さを受け入れ、対等な場所から手を取り合うところは読者の胸を熱くさせる。つまり本作はタイプの異なるふたりの女性による、痛快なバディものなのだ。

 そうやって手を組んだ最強コンビが謎を解き明かしたとき、何が見えてくるのか。法律の知識に裏付けされた意外な真相は、必ずや読者を驚かせるに違いない。

 ちなみに文庫版には篠田節子さんによる解説も収録されている。それを読めば新川さんの作品の面白さが、より一層理解できるだろう。単行本ですでに本作を読了済みの人も、篠田さんの解説を楽しみに、ぜひ文庫版を手に取ってもらいたい。

文=五十嵐 大

あわせて読みたい