最終章へのずば抜けた構成に衝撃! “不思議系ミステリ”の怪作マンガ

マンガ

公開日:2022/11/18

外天楼(KCデラックス)
外天楼(KCデラックス)』(石黒正数/講談社)

 意表を突かれた忘れられない名作を、誰しも持っているだろう。私にとって、その一つは『外天楼(KCデラックス)』(石黒正数/講談社)。知る人ぞ知るマニア人気の高いコミックだが、特にクリエイターの間ではよく知られた王道人気作品だ。『魔法少女まどか☆マギカ』『化物語』『さよなら絶望先生』などで知られる新房昭之監督が「極上の異世界ミステリですよ! いかがですか、アニプレックスさん!!」と大絶賛するなど、影響を受けたクリエイターは少なくないと思われる。そんな怪作と出会って10年ぶりに、久々、再読してみた。

 皆さんはRPGゲーム「ドラゴンクエスト4」をご存じだろうか。第1章は戦士、第2章は王女と2人のお供、第3章は商人、第4章はジプシー姉妹がそれぞれ章の主人公となり、巨悪の気配に導かれながら物語が繰り広げられる。そして、最終章となる第5章の主人公である勇者のもとに、第1章から第4章のキャラクターが仲間として集い、巨悪の正体に迫っていく。

 昭和生まれの私は小学生の時にドラクエ4をプレイして、最終章ですべてが繋がるという見事な構成に衝撃を受けた。それが期せずして10年前、その衝撃を再体験できた。前情報無しに読んだ『外天楼』によって。

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 本作は9話で成る。第1話は、少年3人がエロ本を手に入れるまでの悪戦苦闘。第2話は、ある俳優が巻き込まれた殺人事件。第3話は、ある女性がロボットに抱える悩みと決断。第4話は、新米刑事とベテラン刑事が遭遇した密室殺人事件と迷推理。ここまでは、コメディ要素が多く、笑いながら楽しめる上質の小話だ。続いて第5話は、観賞用人工生命体に対しての倫理問題。そして第6話は、その後の話に大きく関わる殺人事件が起き、第7話からは、ある家族にフォーカスされていき、最もシリアスな最終話で、これまでの登場人物と物語がすべて繋がる。最終話までの要素が伏線としてすべてきれいに回収されるずば抜けた構成力が、本作が高く支持される所以だろう。

 ちなみにすべての話は、いわれある集合住宅『外天楼』と、「生命の価値」という大きなテーマが根底に流れている。

 最終話のエンディングがあまりに儚く、命の尊さを深く思わせてくれる。そして、再読したくなるが、その時には次々登場する伏線に驚いたり、登場人物の行く末に思いを馳せたりして、また違った面白さを味わえるはずだ。

 10年経って、初読のように楽しめた本作。読んだことがないコミックファンには初読を、かつて読んだことがあるファンには再読をオススメしたい。

文=ルートつつみ (@root223

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