ふたりの美男子と呪いの本に翻弄される本好き少女。真実が明らかになったとき、彼女が下す決断は? 後宮を舞台にした小説『華月堂の司書女官』

文芸・カルチャー

公開日:2023/1/7

華月堂の司書女官 後宮蔵書室には秘密がある
華月堂の司書女官 後宮蔵書室には秘密がある』(桂真琴:著、村上ゆいち:イラスト/ KADOKAWA)

 あなたは日常で辛いとき、心の支えになる一冊を持っているだろうか。恋や仕事で悩んだとき、道標となる一冊を持っているだろうか。「読書は人生の財産」といわれる。単に知識や教養を得るだけでなく、小説や漫画は人間性を豊かにしてくれる。本は時間や場所を飛び越えて、作者や登場人物たちと繋がることができる。本好きにとって、本とは教師や友人なのだ。だから本は人の役に立つ薬になるが、しかしときに毒になることもある。本稿で紹介するのはそんな物語だ。

華月堂の司書女官 後宮蔵書室には秘密がある』(桂真琴:著、村上ゆいち:イラスト/KADOKAWA)は、本好き少女が遭遇する一冊の本にまつわる中華風後宮ミステリー。

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 龍昇国の片田舎で暮らす16歳の少女・花音は無類の本好き。縁談を急ぐ父親から逃げるため、難関の試挙に合格し司書女官として後宮に上がることとなる。花音が配属された「華月堂」は、女官たちの憩いの場として使われる図書室だが、「幽霊が出る」といういわく付きの職場だった。鬼上司から無理難題を命じられ華月堂に篭っていた花音は、藍と名乗る覆面の人物から「花草子」という本の捜索を頼まれる。そして月夜の晩、衛兵から追われる美しき青年・紅と出会い一冊の本を託される。次第に花音は後宮内の権力争いに巻き込まれていく……。

 結婚をせっつく父親から開放され、大好きな本を好きなだけ読める!と期待して司書女官になったのに、そんな暇もなく鬼上司の鳳伯言に大量の本の整理をいいつけられ、こんなはずではなかったのにと華奢な体で重い本を相手に悪戦苦闘する花音。まあ、いつの世も仕事とは思い通りにいかないものだ。

 そんななか、花音は「花草子」という本の噂を耳にする。「花草子」は華月堂に隠されており「人を呪い殺せる力が手に入る」という呪いの本だった。

 折しも後宮では次期皇太子の妃候補を巡って4人の妃が権力争いを繰り広げ、それぞれ「花草子」を探していた。どんな手段を使っても他の妃候補を追い落としたい勢力にとっては、なにがなんでも手に入れたい本だ。

 華月堂で仕事に忙殺される花音は、ふたりの男性と出会う。最初に出会った藍は、常に覆面を被っていて素顔の見えない謎の人物だが、花音には辛い力仕事を手伝ってくれる紳士的で優しい青年。

 もう一人の紅は、見た目は美青年だが、やんちゃ坊主がそのまま大きくなったような俺様体質で、花音を護衛してやると言っては一方的に振り回して去っていく破天荒男。

 花音は、藍からは「花草子」をわたすように、紅からは誰にもわたさないようにと真逆の依頼を受ける。

 しかし、花音が華月堂を探し回っても肝心の「花草子」という本は見つからない。本当に存在するのか、本当に呪いの力があるのか、もし見つけたとしたら誰にわたすべきなのか。謎の多いふたりの男性に挟まれた花音は、どちらの言うことを聞くべきか思い悩む。

 やがて花音は、唯一無二の大切な存在である本が、実は恐ろしい二面性を秘めていることに気付く。藍と紅の正体、そして華月堂に隠された真実が明らかになったとき、彼女は司書としてある一つの決断を下す。

 ただ大好きな本を読めればよかったのに、なぜか美しい男性に囲まれて振り回されることになってしまった花音。その運命や如何に。

文=愛咲優詩

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