KADOKAWAの元社長が「怠惰な俺が謎のJCと出会って副業を株式上場させちゃった話」を書いちゃった件

ビジネス

公開日:2023/1/31

怠惰な俺が謎のJCと出会って、副業を株式上場させちゃった話
怠惰な俺が謎のJCと出会って、副業を株式上場させちゃった話』(佐藤辰男/KADOKAWA)

 近年、ベンチャーが注目を浴びている。「数十億円で売却して大金持ちに」というニュースを聞いたり、ビジネス誌でベンチャー社長のキラキラした生活の特集が組まれていたりするのを見かけることもあると思う。しかし一体どうしてそんな結果にたどり着いたのか、外からはわからない。「魔法かな?」なんて考えていた時にこの本に出会った。

怠惰な俺が謎のJCと出会って、副業を株式上場させちゃった話』(佐藤辰男/KADOKAWA)は元KADOKAWA社長(角川グループホールディングス代表取締役社長などを歴任)であり、『コンプティーク』創刊の立役者でもあった著者が書いた小説である。

 主人公の青山は、大学時代の友人と副業で小説サイトを運営しているが、行き詰まっていた。そこに赤い髪をした中学生の女の子「ごこたいちゃん」がいきなり現れる。彼女は青山と友人に発破をかけ、サイトの方向転換を進めてくるが……。

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ライトノベル風の読みやすさで中身はきっちりビジネス小説

 地元の本屋では金融コーナーに置いてあり、「こういうタイトル今も流行っているのか」と思いながら手に取ってみた。ライトノベルのようなシンプルで読みやすい文体で、主人公が副業でしていた仕事を法人化するところに始まり、M&Aによる会社の事業拡大、IPO(上場)を成し遂げるまでがきっちり段階ごとに描かれている。会社を経営する、仕事をすることがなぜやりがいがあるのか、面白いのか。またどれだけ大変なのかが、実感と共にわかりやすく書かれている。

 表紙が『涼宮ハルヒの憂鬱』のイラストを担当された、いとうのいぢさんなこともあり、ごこたいちゃんは「キョン!法人化するわよ!」とでも言い出すのかと思っていた。実際は、行動力があってずばずばと者を言う、真面目なJCだった。主人公たちは副業でやっていた小説投稿サイトを法人化し、ごこたいちゃんをきっかけに出版社へ「1円買収」を仕掛けるなど、事業を拡大していく。そして、いよいよIPOを目指すことになる。

読むとビジネス用語が立体的に感じられる

上場までのプロセス
着手 プロジェクトチーム発足、監査法人の選定、主幹事証券会社の選定。資本政策立案
直前々期(N-2期) 経営管理体制の整備、会計監査の実施
直前期(N-1期) 経営管理体制の運用
申請期(N期) 上場申請、上場審査、上場承認、株式上場

 上記は、作中後半に登場する、主人公たちの会社「ノベルビレッジ」が目指すIPOのプロセスである。

 こうした文章は経済新聞やニュース、ビジネス雑誌などでよく見るが、実体験がないと、何のことやらわからないのは私ひとりではないはずだ。しかし小説を読み進めるうちに、彼らがIPOに向けて何が必要で、何を整備して、最終的にどんな状況で何を目指しているのか、その結果一体どんなことが得られるのかといったことが飲み込めてくる。しかも「がんばれ」「ここで足を引っ張っちゃいけないだろう」といった応援の感情も伴うので、記憶に断然に残りやすい。

 今までは、会社の組織図などを見ても「わかるけどわからない」ことが多かった。しかし、この小説を読んだ後だと、会社が公表する数字や文章がリアルな、実体を持ったものとして、浮かび上がってくるようになった。

サクセスストーリーが教えてくれること

 帯曰く、「副業と起業がすぐできる!痛快青春ストーリー」とのこと。この一冊を読むだけで、起業に関する理解がだいぶ進んでくれるはずだ。上場や、会社経営、社長、ベンチャー。今まで正直よくわからないもの、自分には縁遠いもの、別世界のイメージがあった。

 上場も成功も、まずは仕事(業務)の一つ一つを積み重ね。人が知恵をしぼり、靴底をすり減らし、頑張っている結果に過ぎないのだと、本を読んで見方が変わった。もちろん、小説として楽しめる。その上、専門書に進む前の「ビジネスの入門書」としてもおすすめしたい。

文=宇野なおみ

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