『弱虫ペダル』ノベライズは文章とマンガの絶妙コラボ! 読書が苦手な子どもが最後まで読み切れる工夫も満載

文芸・カルチャー

公開日:2023/2/17

小説 弱虫ペダル
小説 弱虫ペダル』(渡辺航:原作、輔老心:ノベライズ/岩崎書店)

 テレビアニメ5期も絶好調! あの“弱ペダ”のノベライズ『小説 弱虫ペダル』(渡辺航:原作、輔老心:ノベライズ/岩崎書店)の最新11巻が発売になった。

『弱虫ペダル』(秋田書店)は自転車競技に青春をかけた少年たちを描く大ヒットマンガだ。コミックスのシリーズ累計発行部数は2800万部超え(2022年11月時点)。舞台化、映画化、テレビドラマ化もされ、アニメは第5期テレビシリーズが『弱虫ペダル LIMIT BREAK』として放送中だ。

 本作は、2008年から始まり初期から読み始めていた小学生のファンは成人しているほどの長期連載だ。そこで現在の小中学生、さらにはマンガを読まない人たちにも作品の面白さを知ってもらうために企画されたのが、この『小説 弱虫ペダル』である。

 出版社は『モチモチの木』、「ペネロペ」シリーズなどの児童書を刊行している岩崎書店。本書は、マンガと小説の“いいとこ取り”という今までにない誌面構成で展開し、『弱虫ペダル』を初めて読む子どもも、活字が苦手な子どもも、どんどん読み進められるようになっている。この新しい表現は、長年、本作を追いかけてきたファンにもおすすめしたい。きっとマンガとは違った魅力に驚くことだろう。ぜひ、子どもはもちろん、親子で楽しんでほしい作品だ。

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自転車競技にかける青春。少年が開花させた才能とは?

小説 弱虫ペダル 11巻p.3

 まずは『小説 弱虫ペダル』10巻までを振り返る。主人公は高校1年生・小野田坂道。彼は同じ千葉県立総北高校の同級生で、ひょんなことから中学時代から自転車競技で活躍する今泉俊輔にレースを挑まれたことをきっかけに“自転車で速く走る楽しみ”を知った。自転車競技部に入部した坂道は1年生のウエルカムレースや合宿を経て“クライマー”と呼ばれる、登り坂に強い特性を意識するようになった。

 初心者にもかかわらず、坂道は自転車の高校日本一を決める大会「インターハイ」のメンバーに選ばれる。

 迎えた「インターハイ」。1日目はいきなり落車してリタイア寸前の最下位になった坂道だったが、コース後半の山越えで実力を見せつけ、100人を抜きさり総北高校の仲間が待つトップ集団に追いつく。2日目は100キロ超のロングコース。そこで坂道は体調不良のメンバーを拾い、チームメイト6人を率いて大きく先行されていたライバル校の箱根学園や京都伏見を追走した。

 そして運命の最終日、3日目がスタートする。ここまでの順位は1位が箱根学園、2位が総北高校だ。先頭グループには総北高校の金城と今泉、箱根学園の福富と新開がおり、つばぜりあいを繰り広げている。彼らを追うのが坂道を含む両チームのメンバーによる第2集団だ。

 だがその後方からは、広島呉南の待宮がまとめる40台もの大集団が速度を上げてきており、箱根学園と総北高校を吸収しようと迫っていた。

 それはまるで大蛇のようだった。前を行く選手を次々と飲み込んでいたからだ。蛇はハイスピードペースで、トップに追いつこうとしていた。

『小説 弱虫ペダル』11巻で描かれるのは坂道の機転とライバルたちの意地

小説 弱虫ペダル 11巻 p.16-17

 自転車レースでは、敵同士が勝利のために一緒に走る“協調”というものがある。これにより順番に先頭を交代して集団の速度を上げるのだ。先頭を交代できる人数によっては長時間の高速走行が可能になる。

 前日の1位2位である箱根学園と総北高校のメンバーが入り交じる第2集団は協調により速度を上げていた。

 ただ後続の大集団=大蛇も同様で、そのペースは箱根学園と総北高校を上回っていた。坂道はいったん大蛇に飲み込まれたところで、箱根学園の荒北と真波に協調を申し出る。この機転により、3人はスピードを上げて大蛇の中から抜け出すことに成功した。

 そのまま彼らはお互いの仲間がいる集団を目指す。しかしそのためには、大集団を仕組んだ待宮がいる広島呉南を抜かなくてはならない。

 ここで待宮と荒北のデッドヒートが始まる。

小説 弱虫ペダル 11巻p.98-99

 荒北は走りながらこの自転車競技を始める前のことを思い出していた。そして待宮もまた1年前のインターハイでの箱根学園との因縁をかみしめていた。意地と意地をぶつけ合う2人に決着の時が訪れる。その先に先頭集団の背中が見えてきた。加速し、トップを狙う資格を得たのは誰なのか……。

「インターハイ」はいよいよクライマックスへ。勝者は? そして坂道の覚醒はあるのか?

マンガのコマと文章が絶妙に補完し合う新感覚ハイブリッドノベル

『小説 弱虫ペダル』は、マンガを文章で表現しながらも、非常にわかりやすくなっているのがポイントだ。

 まず渡辺航氏のマンガのコマが、挿絵としてふんだんに使われている。時には1ページまるまるマンガになっているところもある。これがまさにマンガの大ゴマのように、読んでいく流れの中でドンッ! と目に飛び込んでくるように計算されレイアウトされているのだ。

 文章量が決して少ないわけではないのに、マンガのようにぐんぐん読めてしまうのに驚くかもしれない。もともとのマンガの絵がもつ説得力と、詳細に書かれた文章の相乗効果で本作の魅力であるスピード感、躍動感、熱さがそのまま楽しめるだろう。『小説 弱虫ペダル』は言ってみればマンガと小説の“いいとこ取り”な新感覚ハイブリッドノベルである。

 さらに前巻までのあらすじが丁寧に書かれており、「はじまる前に」というページではインターハイの流れやルールがしっかりと説明されているため読んでいてひっかかることがない。そして巻末には、ロードレーサーや自転車のことがわかる特別コラム「これでキミも自転車通!」が掲載されているのも見逃せない。

 この新鮮な読み心地は、長年のファンも体感してみてほしい。またファンのあなたがもしも親の立場になっていたら、子どもに勧めて読ませてみるのもおすすめだ。

文=古林恭

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