女性がもっと活躍できる政治への進化を。ジェンダ―後進国・日本が抱える課題解決のための提言

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公開日:2023/2/21

さらば、男性政治
さらば、男性政治』(三浦まり/岩波書店)

 政府による子ども政策・子育て支援に関するニュースが、特にこの数カ月で多く報じられています。紹介する『さらば、男性政治』(三浦まり/岩波書店)は、そんな山積している課題点を整理しつつ「まず最優先で改善すべきは、女性議員の少なさである」と力強く主張している一冊です。

 著者の三浦まり氏は上智大学法学部で長く教鞭をとりつづけてきました。本書では文字数の多くが分析と論拠提示に費やされており、法文のように決して平易ではない内容について、様々な引用・出典と自身の経験・洞察をまじえて、体系立てて分かりやすく読者に提示しています。専門領域の他に、2015年から千代田区の「男女平等推進区民会議」の会長や、子育て施策における注目もあって近年人口が増え続けている兵庫県明石市の「ジェンダー平等の実現に関する検討会」会長を2021~2022年に担当。そのため、分析・論拠を踏まえた上での主張・提言は、含蓄深いものになっています。

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 タイトルにもやはり含蓄があり、本書のページを開き始めるとき、仮に読者が「さらば」という言葉を「決別、突き放し」というようなニュアンスと捉えていたとしても、じきに「旅立ち、招待」といった意味合いを意図して使われていると気づくでしょう。また、「男性政治」も単に男性中心の政治を意味するわけではありません。健康で、異性愛者で、子ども・要介護者などに対するケア責任を免れていることが前提となった「場」のことを、三浦氏は「男性政治」と表現しています。

男性のなかには序列が作られ、男性性の強さは序列に影響を与える。男性らしくない男性は一人前とみなされないか、場合によっては排斥される。

つまりは、男性政治の担い手となる男性もいるが、それを拒否する男性も存在し、自ら組み込まれようとする女性もいる。男性政治とは、決して「男性」対「女性」の政治を意味するわけではない。

 衆議院・参議院間での女性参入率の差や地域格差が主な要因として語られますが、解決策のひとつとして紹介されているのが「クオータ制」です。4分の1を意味するクオーター(quarter)ではなく、割当を意味するクオータ(quota)で、議員候補者の一定割合・一定数を女性と定める制度です。1978年に初めて公式にクオータ制を導入したのはノルウェーで、「公的委員会・審議会は4名以上で構成される場合、一方の性が 全体の40%を下回ってはならない」と基準が決められました。

 最も多い反論として「女性に下駄を履かせることになり、能力が劣った人材が政治を担うことになってしまう」という懸念の声があると本書では指摘されています。こうした意見を聞いたとき、「法学的」ともいえる著者流の思考回路では「女性議員の割合を決めるという『目標』の『目的』は一体何なのか」というプロセスを必ず経ることになります。

「私生活をどれだけ犠牲にできるか」ということが政治家に求められる「資質」であるならば、ケア責任を抱えた女性にあえてチャンスを与えることは「下駄」を履かせることに映るのかもしれない。しかし、それが日本の民主主義において最も重要な資質なのだろうか。

 女性がより活躍しやすくなる「場」の醸成と、そもそもその前段として女性が政治に参入しようという気持ちになる「環境」の整備に目的があるという看過されがちな点を、しっかりと認識することができます。そして、多様な声を「聴く」公共空間の存在にまで配慮が充分になされたとき、「なかった声」が現れる。様々な政治的課題を解決するには、そのように「目標の目的」について共通認識を深めあって、目標の軌道修正が随時できるように意識喚起を行っていけるような循環が大事であると説いています。巨大な壁のように感じてしまいがちな様々な社会課題に太刀打ちすることが、個人レベルで可能なのだと勇気づけてくれる一冊です。

文=神保慶政

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