90年代、世紀末の少女たちを沼に堕とした“天禁”が、令和の時代に復活! 新世代の天使たちの物語が今、はじまる

マンガ

公開日:2023/2/20

天使禁猟区
天使禁猟区-東京クロノス-』(由貴香織里/白泉社)

『ぼくの地球を守って』(日渡早紀/白泉社)『動物のお医者さん』(佐々木倫子/白泉社)など、少女マンガ史に残る数々の傑作が群雄割拠していた90年代の『花とゆめ』(白泉社)。そのなかでとりわけ異彩を放っていた作品が『天使禁猟区』(由貴香織里/白泉社)だ。

 実の兄妹の禁忌の愛を軸として、地上と天界と地獄を舞台に天使と悪魔が壮大なスケールの闘いを展開。流麗なタッチで紡がれるキャラクターたちが織りなす愛憎と漆黒のドラマは数多の少女を沼に堕とし、“天禁”(加えて著者のもうひとつの代表シリーズ『伯爵カイン』と併せて)をきっかけにゴスに目覚めた人も多かった。

 完結から22年の時を経て、新たな世代の天使たちの物語『天使禁猟区-東京クロノス-』(由貴香織里/白泉社)がはじまった。

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天使禁猟区p.24-25

天使禁猟区 p.26

天使禁猟区 p.27

 主人公は中学2年の少年、叶久遠(かないくおん)。1999年7月X日、東京に天使の赤ん坊の羽が舞い降りた日に母親の胎内に宿った彼は、幼い頃から不思議な力を持っている。同級生の背中に羽根が見え、空を覆い尽くしている黒い文字が見えるのだ。3歳年上の先輩・風護カリスに恋する久遠は、勇気を奮って告白するも玉砕。理事長の娘でありクールビューティーなカリスもまた、久遠と同じく空に浮かぶ黒い文字を見ることができるのだが……。

天使禁猟区 p.10

天使禁猟区 p.11

『天使禁猟区』の主人公・無道刹那が破壊し、そして再生した数十年後の東京で、久遠は自らの能力をじょじょに覚醒させていく。

天使禁猟区 p.154

天使禁猟区 p.155

天使禁猟区 p.156

天使禁猟区 p.157

 心霊スポットで遭遇した謎の少年(実は地獄の七君主のひとり、蠅の王のベールゼビュート)に襲われそうになった久遠の背に、3枚の羽根が出現。その力で親友・海王を助けるが、彼の兄が闘いの巻き添えとなって死んでしまう。その頃、父親の過干渉に悩むカリスの前にも、赤毛のガラの悪い天使ミカエルが現れる。

 激しい気性に悪い目つき、だけど根はピュアなヤンキー系天使ミカエルの登場に、旧シリーズのファンならきっとテンションが上がるはずだ。しかもどうやらカリスは、ミカエルの親友である、女たらし系天使ラファエルの生まれ変わりらしいのだ。

 物語が進むにつれ、旧シリーズとのつながりが少しずつ明かされていく構成に、なんともわくわくさせられる。

 常に久遠のそばにいる(だけどその姿は彼にしか見えない)イマジナリーフレンドのような、あるいは守護天使のような不思議な獣“クリオネ”は久遠に忠告する。

「自分を護り初めて相手を護る。それが本当の強さだよ」

 心やさしく、人を傷つけることが嫌いな久遠は、いつも自分のことは後まわしにして他者の心配ばかりしている。それゆえに、常人離れした天使の能力をこの少年は適切に使いこなすことができるのだろうか……と危ぶんでいる。旧シリーズの持ち味だった過激さは抑えられ、ひとりの少年の成長ものという色合いが濃くなっているところに、今現在の著者の作風が感じられる。

 天使となった久遠の成長と、カリスとの関係の変化、そして再始動の気配を見せる天使と悪魔たちの動向も気になるところだ。ミカエルが久遠やカリスと同じ学校の学生になるという、学園ドラマ的な展開にも心が躍らされる。

 かつて“天禁”に心を鷲掴みにされた読者も、これから“天禁”を読みはじめるという読者も、おしなべて沼にたたき堕とされることだろう。

文=皆川ちか

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