ガールズバーに夜な夜な現れる霊の真実とは? 霊を祓えないインチキ霊媒師×訳あり幽霊! 怖くて、切ない、異色の極上ホラーミステリー

文芸・カルチャー

公開日:2023/3/10

贋物霊媒師2 彷徨う魂を求めて
贋物霊媒師2 彷徨う魂を求めて』(阿泉来堂/PHP研究所)

 怨念、後悔、情愛…。死しても忘れがたい激情が、死者たちを幽霊としてこの世に留まらせ続ける。彼らはどんな思いを抱えているのか。その声を聞き、魂を鎮める——「霊媒師」と呼ばれる人たちに求められるのは、そんな能力だろう。

 だが、世の中にはインチキの霊媒師もいるに違いない。「贋物霊媒師」シリーズ(阿泉来堂/PHP研究所)は、そんな胡乱な霊媒師とその助手が織りなすホラーミステリー。横溝正史ミステリ&ホラー大賞〈読者賞〉でデビューした著者、阿泉来堂さんならではの戦慄ホラーあり、どんでん返しありの、極上のミステリーだ。

 主人公は、“今世紀最強の霊媒師”と謳われる有名霊媒師・櫛備十三(くしびじゅうぞう)。「どんな霊障・祟りも解決できる」と大口を叩いてはいるが、本当は持ち前の洞察力とハッタリを駆使しているだけ。幽霊を見ることはできても、それを“祓う”能力は持ち合わせていないインチキ霊媒師だ。ある事件に巻き込まれ、彼の助手となった、大学生の美幸とともに、櫛備は数々の心霊現象の現場へと赴いていく。

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 眼球のない仄暗い眼窩で店主を睨みつけるガールズバーの幽霊。居酒屋を営む男のもとに毎晩のように現れる亡き妻。地下室に鳴り響く、耳をつんざくほどの哄笑。学校に伝わる鏡の怪談…。第2巻となる『贋物霊媒師2 彷徨う魂を求めて』(阿泉来堂/PHP研究所)では、櫛備は前巻以上に不穏な心霊現象に立ち向かっていく。幽霊たちの恐ろしい姿に何度ゾッとさせられたことだろうか。だが、櫛備と一緒に幽霊たちの声を聞けば、次第にその印象は変わってくるはずだ。彼らの存在は悲しく、そして、切ない。この世に留まり続けているその理由に、胸が締め付けられる。幽霊たちの抱える強い思い。櫛備はそれをどう受け止めていくのだろうか。

 幽霊たちにまつわる事件の面白さもさることながら、物語を読めば読むほど、櫛備十三という人物にも興味が湧いてくる。櫛備は、お金にがめつく、目立ちたがり屋で、嘘ばかり吐く胡散臭いおじさんだ。いい加減なその態度は、いつも助手の美幸に叱られてばかり。櫛備と美幸の掛け合いには思わず笑わされてしまう。だが、櫛備は霊たちと向き合う時だけは真剣そのものなのだ。特に、悪い人間の食い物にされた幽霊の気持ちは絶対に無下にはしない。彼なりの力で正義を貫こうとする。そんな姿を知れば知るほど、読者も櫛備の魅力に惹きつけられる。それは美幸だって同様だ。美幸は幽霊の気持ちに寄り添う彼を尊敬し、自分がその助手であることを誇りにさえ思うようになる。しかし、第2巻では櫛備にもう一人、新たな助手ができ、加えて、櫛備の過去も明かされていく。なぜ櫛備は霊を祓う能力がないのに霊媒師になったのか。なぜ霊体の美幸を助手にしているのか。美幸は櫛備にとって自分は本当に必要な存在なのかと思い悩むのだ。

 人間にだって、幽霊にだって、感情があり、悩みがあり、内に秘めた強い思いがある。恐ろしい幽霊たちの姿を描きながらも、ミステリー要素も楽しめるこの作品は、人情ドラマにもホロリと泣ける。怖いのに、切ない。切なくて、悲しいのに、それでいて、どこか温かい気持ちになったり、スッキリした気持ちになれたり。インチキ霊媒師と幽霊のそんな異色のホラーミステリーを、あなたも味わってみてほしい。

文=アサトーミナミ

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