趣味は怪談収集!『むかしむかしあるところに、死体がありました。』著者秘蔵の実話怪談集

文芸・カルチャー

公開日:2023/5/16

怪談青柳屋敷(双葉文庫)
怪談青柳屋敷(双葉文庫)』(青柳碧人/双葉社)

 きっとこの世界には普通の人間には知覚できない、魑魅魍魎の類が跋扈している。そして、そんな存在が時折、何の気の迷いか、私たちにちょっかいを出しているのではないだろうか。そうとでも思わないと説明がつかないくらい、世の中は不思議な出来事で溢れている。そんな世にも奇妙な事件の数々が「実話怪談」として、多くの人の間で語り継がれているのだろう。

怪談青柳屋敷(双葉文庫)』(青柳碧人/双葉社)は、そんな50篇近くの「実話怪談」を収録した1冊。著者は、『むかしむかしあるところに、死体がありました。』『赤ずきん、旅の途中で死体と出会う。』(ともに双葉社)などで知られる人気のミステリ作家・青柳碧人さんだ。「なぜミステリ作家が怪談集を?」と思うかもしれないが、理由は明快。青柳さんはかなりの怪談マニアで、趣味は、怪談収集。友人や知り合いはもちろんのこと、夜、酒場などに出かけては「怖い話、不思議な話はないですか?」と聞き込みをして、ひそかに怪談を集めているのだという。『怪談青柳屋敷』には、その名の通り、家にまつわる怪談から、青柳さん自ら体験した怪異、出版業界で耳にした恐怖体験などが詰め込まれている。ひとたびこの青柳さんの“屋敷”に足を踏み入れれば、身の毛のよだつ思いがすることだろう。

 本当にここにはありとあらゆる怪談がおさめられている。古い介護施設で起きた怪異「赤い靴」、同級生にまつわる記憶「神永くんは知らない」、霊感のある女子生徒たちが恐れるある教室「感じる場所」、コロナで入院することになった不自然なほど最新設備が揃った「きれいな病室」……。ひとつひとつの怪談が短いから、短時間でスイスイ読み進めてしまい、油断すると、突然、この世のものではない世界に放り出されたような感覚に襲われる。予想外の展開に、思わず絶句。「あくまで趣味の延長であるため、一流怪談師の方々がするような濃厚な追加取材・調査はしていない」と青柳氏は言うが、だからこそかえって生々しい。「一体この後どうなったのだろう」「なぜこの幽霊は現れたのだろう」と想像力を掻き立てられ、心がザワついてしまう。

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 だが、怖い話ばかりではないのが、青柳さんの怪談だ。たとえば、「ぴーこわい」という怪談。子どもが急に何もない空間を指さし、「ぴーこわい、ぴーこわい」と何かを怖がるようになったという話が綴られているが、子どもが見た怪異の正体とその発言の理由についての説は、その奇妙さに驚かされつつも、ミステリの種明かしのような腹落ちがある。また、身の回りのことに一切無頓着だという後輩女子がアパートで2体の幽霊と同居しているという「相部屋ゆうれい」は、意外な展開に笑わされてしまうし、霊感の強い友人が寝ている間に経験したという「生手」も同様。どちらも、普通の人ならば怖がりそうな場面なのに、当事者たちが、何だか能天気で、吹き出さずにはいられなかった。

 恐ろしいようで、クスっと笑わされ、それでいて、時折、突然突き落とされるような恐ろしさもある。これまでの青柳さんのミステリ作品とも共通する読後感を覚えたのは私だけではないはず。ここは、まさしく青柳さんの屋敷。それも不気味で奇妙で、それでいて、ゾクゾクさせられてしまう屋敷だ。あなたも、この青柳さんの家をそっと訪れてみてはいかがだろうか。そうすれば、日常に潜む怪異たちの存在を信じずにはいられなくなるだろう。

文=アサトーミナミ

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