シリーズ累計90万部超え! 『任俠シネマ』が文庫化。昔堅気のヤクザ・阿岐本組が映画を救うために奔走!?

文芸・カルチャー

更新日:2023/7/7

任俠シネマ
任俠シネマ』(今野敏/中央公論新社)

 人気作家・今野敏さんの「任俠」シリーズをご存じだろうか。リアルにヤクザな一家・阿岐本組のコワモテの面々が世の中を救うという異色のシリーズながら、売り上げは累計90万部超え。2019年には2作目の『任俠学園』が映画化されるなど大人気となっている。最新作は昨年6月に発表された6作目『任俠楽団』だが、このほど5作目の『任俠シネマ』(中央公論新社)が待望の文庫化。この機会に、シリーズ未体験の方もぜひ手に取ってみてはいかがだろう。

 主役となる阿岐本組は組長の阿岐本を筆頭に、ナンバーツーである代貸の日村(心配性)、組員の健一(喧嘩がめっぽう強い)、稔(元暴走族)、テツ(元ハッカー)、真吉(優男で女にやたらモテる)と個性的な6名からなる小さな組。組長の器量と人望で生き残ってきた今時珍しい「任俠道」をわきまえたヤクザであり、警察には目をつけられながらも、地域のみなさんとはそれなりにうまくやってきていた。物語は毎度、そんな阿岐本組に親分の兄弟分・永神から相談が持ちかけられることで幕をあける。その相談とはギリギリに追い込まれた出版社、高校、病院、銭湯を立て直すことであり、なんと阿岐本組の面々は見事な立ち回りでそれらのミッションを完了してしまうのだ。そして本作『任俠シネマ』では、そんな阿岐本組に新たな依頼が舞い込む。

 ある日、阿岐本組に永神から、「相談があるから夕方に事務所に行く」と電話が入る。いやな予感がする日村だったが、阿岐本は「寿司でも頼め」とまんざらでもない様子。果たしてその相談とは、北千住にある古い映画館「千住シネマ」を救ってくれないかというものだった。実はこれまで一度も映画館で映画を見たことがなかった日村は、「映画館」と聞いて浮き足立つ組長や組員の気持ちが理解できない。だが後日、千住シネマの社長に詳しい話を聞きにいったとき、高倉健の『昭和残侠伝 血染めの唐獅子』『日本俠客伝』を見て衝撃を受けた日村は、「映画館」という場所の持つ特別な意味を理解する――。

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 昨今、ネットの影響もあって観客動員数が減り、存続が厳しくなっている「映画館」という存在。もしかするとこの記事を読んでいる方の中にも、映画館はご無沙汰という方もいるかもしれない。時代の流れとはいえ、こうした昔ながらの存在が簡単に失われてしまうのはなんだかもったいない話だ。昔気質のヤクザである阿岐本組の奮闘だからこそ、こうした「大事なもの」の存在を再認識させられるのも本シリーズの醍醐味かもしれない。映画館だけでなく、義理や人情、ご近所とのつながりなどなど、単なるノスタルジーにしてはいけない大事なものがこの世界にはたくさんあるのだ。

 実は「千住シネマ」には存続を願いクラウドファンディングを呼びかけるファンの会がある。何者かに脅されていて思うように活動できていなかったファンの会が、阿岐本組の活躍で少しずつ盛り返していく姿にもなんだかワクワク。映画が好き、映画館が好き――物語全体にそんな気持ちが溢れていて、久しぶりに映画館に行きたくなってくる。

文=荒井理恵

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