大物俳優の家政婦になるため他人になりすまし⁉ これはギャグかサスペンスか

マンガ

公開日:2023/6/5

ミワさんなりすます
ミワさんなりすます』(青木U平/小学館)

 大好きな芸能人の家に、家政婦として雇われる。

 想像すらしたことのない幸せだ。私なら浮かれて何も手につかなくなってしまうだろう。

 しかしそれが、ウソをついて雇われたのであればどうだろう。幸せな気持ちをずっと保てるだろうか。

 漫画『ミワさんなりすます』(青木U平/小学館)のテレビドラマ化が発表された。

 これまでにない設定と先の読めない展開が多くの読者に評価されたのは間違いない。ぜひドラマが始まる前に、原作であるこの漫画を読んでほしいと思い、この記事を書き始めた。

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 主人公の久保田ミワは大の映画ファンであり、中でも世界的な俳優・八海崇が最大の推しだった。ある日、彼女はひょんなことから八海家の家政婦として採用されるはずだった美羽さくらになりすまし、八海家で働くことになる。

 いつ正体がばれるかわからない。そんな恐れを抱きつつ、本当のことを言い出せないミワは、八海の大らかな人柄にどんどんと惹かれて、彼と映画談議をするようになる。ミワは自信がなく周囲からも馬鹿にされてばかりの人生だったが、八海はミワの良いところを自然に見つけてくれる初めての相手だった。推しによって、ミワは初めて自分の個性が肯定される経験をするのだ。

 そんな心あたたまるストーリーなのだが、ことあるごとに読者は思い出す。ミワが嘘をつき、家政婦になりすましていることを。

 いつばれるのか。

 彼女のなりすまし行為は、決してきれいごとにはできない。

 やがてミワがなりすました美羽さくら、つまり本当は八海家で家政婦になる予定だった女性が登場して本作に緊迫感を与える。

 彼女もミワと同じ八海崇の大ファンであり、本作で唯一、ミワの秘密をにぎる存在でもある。だがさくらはなぜかミワのなりすましを明かさない。彼女はミワと同じように八海の大ファンでありながら、どうして真実を明かさないのか、何をしたいのかが現段階では見えてこない謎の人物である。

 さくらはミワに問う。街を歩く人々が幸せのためにどのような代償を払っているのかと。答えられないミワに対してさくらは述べる。

ウソを、つくの。
(中略)なりふりかまわず、死にものぐるいに。

 これはまさに、ミワが大好きな八海崇にしていることだ。

 敵か味方かわからないさくらに言われて、ミワは動揺する。

 笑い、ミステリー、ヒューマンドラマ。

 そのすべての魅力が味わえる本作において、「ウソをつくこと」はひとつの軸のように感じられるが、最新刊の6巻でウソをつかない女優・五十嵐凛が登場し、とうとうその軸が揺れ動く。

 彼女は海外で数々の賞を受賞している類まれな演技派女優である。しかし映画の撮影が終わると日本の大女優にもタメ口で話すような自由奔放さを見せ、八海が大好きなので彼を前にするとメロメロになって感情を露わにする。

 本来、ミワは推しの熱愛を全力で祝福できるタイプのファンだった。ところが彼女は、届け物を頼まれて行った映画撮影のスタジオで、凛に抱きつかれている八海を目撃して自分が泣いていることに気づく。

 これは推しに対しての感情ではないミワは自分のことを「おこがましい」と感じ、その場から走り去るのだが、すぐにスタジオ内で迷子になってしまった。そしてミワは、シャワー室にいた凛と出会い、服を貸したことで妙な縁が生まれることとなる。

 ウソをつくミワと、ウソをつかない凛。八海崇を想うふたりが対峙したとき、何が生まれるのか。

 本作は最新の6巻まで想像もできない展開が続いてきた。

 次の楽しみは、ミワと凛の関係がどうなって、八海がそれにどう反応するかである。

 テレビドラマが放送されるまでに、ぜひ今までの『ミワさんなりすます』を振り返ってほしい。

文=若林理央

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