子どもが人生初の伏線回収を体験できる⁉ 大人のミステリと全く同じ手法で書かれた、知念実希人氏のミステリー児童書シリーズ第1巻

文芸・カルチャー

更新日:2023/6/29

放課後ミステリクラブ
放課後ミステリクラブ』(知念実希人:作、Gurin.:絵/ライツ社)

 シャーロック・ホームズ、アルセーヌ・ルパン、怪人二十面相と明智小五郎…ミステリ好きの大人たちの多くは、きっと彼らの活躍に胸躍らせ、図書室で借りた本に夢中になった子ども時代の経験をお持ちなのではないだろうか。謎解きや冒険に夢中になって、次から次へと新たな本に手をのばす…そんな面白い本との出会いはずっと忘れられないもの。おそらく大人になってもミステリが好きなのは、こういう原体験があることも大きいかもしれない。

 このほど、そんな子ども時代の「忘れられない本」になりそうな新シリーズ『放課後ミステリクラブ』(知念実希人:作、Gurin.:絵/ライツ社)が登場する。著者の知念実希人さんは本屋大賞ノミネート作である『ムゲンのi』『硝子の塔の殺人』などを書いた人気作家。現役の医師でもある強みを生かした医療ミステリのトップランナーともいわれており、そんな知念さんが「読書は楽しい。そのことを子どもに知ってほしい」と書き下ろすのが本シリーズなのだ。この6月末に第1巻「金魚の泳ぐプール事件」が刊行され、2023年冬に第2巻、2024年春に第3巻の刊行が決まっているとのこと。子ども向けという「新境地」は、知念ファンの読者にとってもお楽しみになりそうだ。

 夜の10時すぎ、4年1組の担任・真理子先生が明日の準備のために深夜のプールに向かうと、なんとプールには色とりどりの金魚が泳いでおり、みんなが楽しみにしていたプールはお預けとなってしまう。いったい、誰が、何のために?――真理子先生に謎解きを依頼され、4年1組の辻堂天馬、柚木陸、神山美鈴が動き出す。実はこの三人、消えてしまった給食費入りのペンケースが消えてしまった事件を解決し、通称「ミステリクラブ」として真理子先生に一目置かれているのだ。果たして三人は「金魚が泳ぐプールの謎」を解決できるのか!?

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 ザッとあらすじを見るだけでも舞台は小学校、活躍する名探偵も小学四年生の三人組と親しみやすい設定。ポップなイラスト入り、さらには「人が死なない」ことも約束されているとのことで、子どもたちが安心して手に取れる本になっているのがうれしい。ちなみに登場人物の少年・辻堂天馬はイギリス帰りの海外ミステリ好きで、物語の中でも『バスカヴィル家の犬』(コナン・ドイル)や『そして誰もいなくなった』(アガサ・クリスティ)などの大人向けミステリを読んでいる。巻末にはそれらの作品の紹介もあり、細かい仕掛けがさらに子どもの好奇心を刺激してくれそうだ。

 た・だ・し、子ども向けだからといってナメてはいけない。著者の知念氏は大人のミステリと全く同じ手法で本作を書いたといい、子どもたちが人生初の「伏線回収」を楽しめるよう、きっちり仕掛けが用意されているのだ。「?」を拾って謎解きしながら読み進め、最後に一気に全貌が見えてくるあの快感――子どもたちもそんな「考えながら読む」ことの楽しさ、気持ちよさを知ったらすっかりハマってしまうかも!?

「あとがき」によれば、知念氏はルパンの『奇巌城』にハマったことで読書に目覚めたとのこと。おそらく多くの人に、そんな「原点」となる一冊があるのではないだろうか。今はゲームやアニメばかりというお子さんもいるだろうが、もしかするとその子はまだ「運命の一冊」に出会っていないだけなのかもしれない。この本をなにげなく手渡せば、そんな子の新たな扉が開く!? ぜひ、親子で楽しんでいただきたいシリーズだ。

文=荒井理恵

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