デマツイートを拡散したら加害者?マンガからSNSとの付き合い方を学ぶ『しょせん他人事ですから』

マンガ

公開日:2023/6/16

しょせん他人事ですから ~とある弁護士の本音の仕事~
しょせん他人事ですから ~とある弁護士の本音の仕事~』(左藤真通:原作、富士屋カツヒト:作画、清水陽平:監修/白泉社)

 皆さん、楽しいインターネット・ライフを送っていますか? 私は公私ともに、ネットなしではもはや生きていけません!

 日々の瑣末事をブログやSNSに書き込むのはもちろん、地震や台風や電車の遅延などが起きるとすぐにTwitterを開き、服装や買い物に悩むとInstagramを開き、現実逃避をしたくなるとTikTokでドバイの富豪の桁違いな生活を覗いてはボーッとする日々…。インターネットと馴染みすぎて、こうやってWEB記事を書くことや、SNSのアカウント運用も仕事のひとつとなっています。

 もはやオンライン・オフラインの区別なく、インターネットが生活の一部になっている方は少なくない、いいえ皆さんほとんどそうなのではないでしょうか?

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 そして、私たちはうっすら知っています。この便利で楽しいインターネット社会には、少し足を踏み外すと大変な地獄が待っていることを…そう、「炎上」です。

 スマホでアプリを開くと、毎日のように誰かがどこかで炎上しているのを目撃します。それを見て、こう思っているのではないでしょうか。「あれはバカがすること」「別に醤油瓶ナメたりしないし」「しょせん他人事ですから」…

 今日ご紹介するのは、まさにそんな気持ちに冷や水をぶっかけられ目が覚めるような気持ちになる、そんな作品。『しょせん他人事ですから ~とある弁護士の本音の仕事~』(左藤真通:原作、富士屋カツヒト:作画、清水陽平:監修/白泉社)です!

ある日突然、ブログが大炎上!被害者が取るべき手段とは?

 インターネット案件に強い弁護士・保田理(やすだ・おさむ)。彼が経営する保田法律事務所には、様々なインターネットトラブルが持ち込まれます。

 ある日、弁護士無料相談会を訪れたのは、ブロガーで主婦の桐原こずえ。彼女は、自分が運営するブログが炎上し、いわれのない情報を流された上に電話番号まで晒されているという現状を、涙ながらに訴えます。

 そんな彼女の心に、弁護士の保田は寄り添った…りは、しません!(そこがいい!) 「泣いてないでちゃんと説明してください」と冷徹なまでに言い放ちます。保田の信条は、「他人事」。相談者の心情に踏み込みすぎず、敢えて「他人事」として処理を進めることに重きを置いている弁護士なのです。

 一見冷たく変わり者の彼ですが、その嘘偽りのない言葉を逆に信じられると感じた桐原は、改めて保田をパートナーにして戦いたいと決意します。

最近よく聞く「情報開示請求」。実際に行動に移すには…?

 自分がもし、桐原のように炎上に巻き込まれたらどうすればよいのでしょうか。この作品では、炎上に巻き込まれた際の選択肢や費用、手順が、実に細かく、とても誠実に描かれています。

 ここで「誠実」としたのは、単語だけはよく聞く「情報開示請求」が、被害者にとってどんなに負荷がかかるものなのか、最初にしっかり説明されているからです。

「金がかかり 時間がかかり 何より自分の精神が削られる しんどいんですよ」(『しょせん他人事ですから ~とある弁護士の本音の仕事~』1巻より)

 そんな負荷を乗り越えてでも戦いたい、この覚悟が必要なのが「情報開示請求」なのです。

 戦うという選択をした桐原は、保田に情報開示請求の手続きを求めます。結果、判明した加害者の正体にダメージを受けることに。加害者が特定された先には、さらなる戦いの選択肢が待っていました。もちろん、正体が明らかになった加害者はどんどん追い詰められていきます。同時に、桐原もまた、保田の最初の言葉の通り、消耗していくのでした。

加害者たちに、あまりに悪気が無さすぎる現実が怖い!

 普通の犯罪モノの作品だと、加害者が罪を認め、罰を受けると多少なりとも溜飲が下がるもの。この作品でも、短絡的に炎上に加担していた加害者の正体が判明し、社会的に火だるまになっていく様子は、読んでいてもちろん痛快ではあります。しかし、心のどこかに引っかかりも覚えます。

「万が一、自分の書き込みが誹謗中傷だと捉えられたら、加害者と同じ未来が待っているかもしれないということ…?」という気持ちに、どうしてもなってしまうのです。書いた本人がその意識を持っていなくても、受け手の心が傷つけばそれはもう誹謗中傷なのです。

 そして例えば、うっかり「うわー、これは最悪だわ~!」と、ツイートを拡散してしまったら? それがデマだった時、被害者にとってこれもまた立派な加害行為なのです。

 この作品には、前述したブロガー炎上事件の他にも、膨大な加害者が存在する芸能人のネット炎上事件や、中学生がネット配信のコメント欄を荒らしまくって訴えられるトラブルなど、リアルすぎるインターネット炎上案件が登場します。

 すべてのトラブルの加害者には、悪いことをしたという意識が皆無、という共通点があります。そこには、「カッとなって殴った」「復讐で殺意が芽生えた」「金に目がくらんだ」「欲望に負けた」など、犯罪者にありがちな「動機」がほぼ存在しません。「皆が盛り上がっているから便乗した」「なんだか面白そうだから」という「ノリ」で加害行為に加担していく、その悪意の無さが、とっても怖いのです。

 今まで、犯罪モノの作品を読んで「巻き込まれたら怖いな…」と、被害者側の気持ちになることはあっても、加害者側に転落してしまう人生を想像することなど、ほとんどの人にはなかったはずです。しかし、この作品を読むと、被害者の苦しみに同情するだけでなく、自分が加害者側に足を踏み外すかもしれない、そのハードルの低さに震えるという、ダブルの衝撃を受けることとなるのです。

 リアルでレアな読後感を味わいつつ、インターネット社会を生きていく上で、必要な知識も得られる、一挙両得すぎるこの作品。まさに現代の必読書とも言える一冊です!

文=ネゴト / ウエハラアズサ

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