女子高生たちの繊細でいて骨太な生き様を見てほしい!一歩踏み出す勇気をくれる『百合にはさまる男は死ねばいい!?』

マンガ

公開日:2023/6/29

百合にはさまる男は死ねばいい!?
百合にはさまる男は死ねばいい!?』(蓬餅/LINE Digital Frontier)

 幸福感を決定するのは健康と人間関係、そしてそれに次ぐ要因として“自己決定”があげられるという研究結果があります。有り余るほどのモノに囲まれて昔ほど不自由のない世の中で、“人生を選択する自由”が私たちに与える影響は小さくありません。

百合にはさまる男は死ねばいい!?』(蓬餅/LINE Digital Frontier)では、吹奏楽に奮闘する女子高校生たちが唯一無二のハーモニーを奏でるため、そして自らの意志を貫くために切磋琢磨する姿が描かれます。百合に反応して避けるのは本当にもったいない! そう感じるほどに骨太な彼女たちの生き様は、大人の心にもグサリと爪痕を残します。

 環境と自らによってかけられた呪いを解きたいあなたは必読ですよ。

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本気に向き合う覚悟はあるか

 吹奏楽の花形、トランペット。片桐千早(かたぎりちはや)はたとえ一人でも日々の努力を怠らず、常に部内でのトップを目指してきました。そこへ強豪校から転校してきた才能あふれる相川響(あいかわひびき)が颯爽とその座を奪います。

 そんな端から見たら不運な状況など1ミリも気にせず、本気で高みを目指せる仲間の存在に嬉しそうな片桐。それを知った相川は彼女の音楽への真っ直ぐさに惚れながらも、内に秘めた自信のなさを抉られるようで悶え苦しみます。

 片桐への想いを持ちながらも、その心の隙間を埋めるように相川は後輩男子と付き合いはじめ、あらためて家族や音楽との距離を考えはじめます。

小さな一歩の繰り返しで鎖はきっと切れる

 進路や人間関係などさまざまな悩みを抱える高校生たちの姿が、とうに大人になったはずの私たちに重なる部分が多分にあるなんて本当に不思議です。

 例えば相川なら、音楽一家に生まれたことで、音楽で生きていくことが当然のように育てられたことが呪いとなり彼女を苦しめます。その当たり前と思わされた中で上手く生きられない自分が悪いんだと思い込んでしまうんですね。天才だからと片付けられる努力の裏にはそんな背景があるだなんて、強がる彼女からは感じられません。

 音楽で片桐と繋がっていたい。でも、あらかじめ敷かれたレールの延長線上での音楽では意味がない。「これでいいんだ」と思える選択をするには長い間繋がれていた鎖を断ち切る必要があります。せまいせまい世界の中で、さもそれが全てであるかのように都合よく刷り込まれて囚われている。それに気づくにはきっと一人では無理なんです。

 いつも何処かにあった違和感を転校先で出会った人々に優しくすくい上げてもらうことで、相川の前に居座るモヤが少しずつ晴れていきます。そしてそれは、片桐にとっても同じなのです。

ダサい自分を受け止める勇気

 百合にはさまる男は嫌われる傾向にある中で「男がはさまる百合が好き」な作者・蓬餅先生の心を投影したようなタイトルが秀逸です。その張本人で相川の彼氏、日向尊(ひゅうがみこと)も本当に良い仕事をしています。

 誰かを否定することで安心感を得たり、天才や才能だけで人の努力を片付けたり、勝手な思い込みで他人を語ったり…そんな知らず知らずのうちに誰もがやっていそうな数々をもちろん登場人物たちもやっていて。肝心なのはそれに気づき、気づかされた後にどうするかです。そして、片桐、相川、日向の三角関係を中心に、吹奏楽部の面々も交えながら紡がれる物語が、人として大切なことにも気づかせてくれます。

 そんなのダサいとわかっていてもそれでも動けないことってありますよね。自分の弱さを認めることには誰だって勇気が必要でしょう。そう悩める私たちに、小さな一歩から変えていけるんだという希望を本作の高校生たちが体を張って見せてくれます。

文=ネゴト / みっちー

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