養育費を確実に支払わせるには…? “幸福な離婚”をするコツを家庭裁判所の元・家事調停委員が伝授

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更新日:2023/7/6

幸福な離婚-家庭裁判所の調停現場から
幸福な離婚-家庭裁判所の調停現場から』(鮎川潤/中央公論新社)

 生涯添い遂げることを誓い合ったパートナーとの離婚理由は、人によって様々。笑顔で別れを言える人もいれば、憎しみ合って縁を切る夫婦もいることだろう。

 だが、どんな場合でも大切なのは、自分や家族にとって「別れる」という決断がマイナスに作用しない離婚をすること。それは、自身の心の安定や我が子の幸せに繋がる。

幸福な離婚-家庭裁判所の調停現場から』(鮎川潤/中央公論新社)は結婚と離婚が切り離せないこの時代だからこそ、手元に置いておきたい一冊だ。著者は長年、少年非行をメインに研究する中で家族問題に関心を持ち、10年以上にわたって家庭裁判所の家事調停委員を務めてきた。

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 これまでに離婚を中心とした、200件以上の家事事件の調停を担当。当事者に寄り添いつつ、問題の解決を図ってきた。

 その経験をもとに、本書では具体的なケースを挙げながら、子どもを含む家族の幸福度が最大限満たされるような“幸福な離婚”の仕方を紹介。離婚への備えや必要な知識も得られる書籍となっている。

子どもがいる場合は「協議離婚」でいいのか熟考する必要がある

 本書は2部構成。前半では子育て世帯の離婚や夫の不倫による熟年離婚など、年代別の具体的な離婚事例を掲載。後半では、「親権変更」や「住宅ローン」など、離婚時、重要になるテーマの事例を挙げ、問題への解決法を紹介している。

 日本では夫婦の話し合いによって離婚を決め、離婚届を提出する「協議離婚」を選ぶ人が多い。家庭裁判所に申立をしない協議離婚は一見、円満な解決法のように思えるが、問題点があると著者は指摘。

〈30代の離婚事例〉
夫:30代前半(会社員)
妻:20代後半(主婦)
子ども:1歳児がひとり、夫には前妻との間に子どもがひとりいる
婚姻期間:2年
経緯:妻からの離婚申立

 このケースでは、妻は協議離婚ではなく、調停離婚を選んだ。その理由は夫が前妻へ養育費を払っていなかったからだ。調停により、夫は子どもが20歳になるまで月3万円の養育費を支払い、面会交流は月に1回程度行うことになった。

 著者いわく、子どもがいる夫婦が調停離婚を選ぶことには大きな意味があるそう。なぜなら、調停離婚をし、養育費について調停条項に盛り込まれれば、養育費が支払われない時には、強制執行の手続を取ることができるからだ。

 養育費が支払われなくなったことを家庭裁判所に申し立てると、養育費を支払うべき親に督促がいく。一般的には1回目に履行勧告が、2回目には履行命令を出され、それでも支払われないと、地方裁判所に申し立て、債権差押の令状を発行してもらうことができる。

 相手がサラリーマンであれば、勤務先に連絡が行き、未払いの養育費に加え、現在および将来支払われるべき養育費を、給料から強制的に差し引き、払わせることができるのだ。

 さらに、調停条項には、子どもの進学時や病気などで特別な出費が必要になった場合には別途協議をするという内容の文言もしばしばつくため、その都度、元の配偶者と話し合い、負担を求めることができるという。

 著者によれば、母子世帯で養育費の取り決めをしている人は2016年の調査では42.9%であり、現在も養育費を受けている人は24.3%と低いそう。つまり、養育費の取り決めをしたシングルマザーの約半数は途中で支払いが滞り、養育費を受け取っているのは母子家庭のうちの4分の1以下だという。

 こうした事実を知ると、安易に協議離婚を選ぶのではなく、金銭面でも我が子に不自由をさせない離婚の仕方を考えたくなる。本書には子どもに心理的負担を与えにくい面会交流のルールも記されているので、そちらも参考にし、我が子があらゆる面で苦悩しない離婚を検討してみてほしい。

マイホームが夫婦にとって最大の負債となることも…

 子どもがいない場合でも離婚時、気をつけなければならないポイントはある。そのひとつが、マイホームの購入時期。実は家を新築したり、家やマンションを購入したりしてから間もないうちに離婚し、大きな問題に直面するケースは多いそう。例えば、離婚時に家がオーバーローン(売値よりもローン残高のほうが多額な状態)である場合、解決策を見出すのが難しいのだとか。

 著者が知っているケースでは、家に住み続けることになった妻がローンを借り換え、残っているローンを払っていくという変更が銀行に認められたケースはあったものの、この対処法は妻が夫をしのぐ年収を得ており、実家が資産家であったことから可能だったそう。

 オーバーローンの物件は家庭裁判所から「負の財産」とみなされ、財産分与の対象とはされないため、離婚時、最大の負債となることが多いのだ。

 だからこそ著者は、全額を一括で支払える場合と、住宅ローンの金利が低く留まっている一方で土地や家屋の価格が大幅に上昇しており、もしもの時に家を売却してローン残高を清算できるような場合以外は、マイホームの購入を立ち止まって考えるべきだと話す。

 幸福な離婚をするには、マイホームを負の遺産にしない対策を行っていくことも重要なのだ。

 本書にはDVを受けた妻子の離婚劇や、我が子ではない子が自分の子として戸籍登録されていた男性の離婚事例など、今は想像できなくても、いつかは我が身に起きるかもしれないケースも掲載されていてタメになる。まさかの事態に直面した時に役立つ知識も得られる本書、備えてみてはいかがだろうか。

文=古川諭香

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