構成も物語もバトンリレー!天沢夏月が贈る、信頼関係欠如の高校生4人を描いた青春陸上小説『ヨンケイ!!』

文芸・カルチャー

公開日:2023/7/6

ヨンケイ!!
ヨンケイ!!』(天沢夏月/ポプラ社)

 “ヨンケイ”とは、400メートルリレー(四百米継走)のこと。第一走者から第四走者まで、各自で100メートルずつバトンを渡しつなげて走る競技だ。

 高校テニスの世界を描いた「DOUBLES!! ―ダブルス―」シリーズや『17歳のラリー』(共にKADOKAWA)、吹奏楽部を舞台にした『マエストロ・ガールズ このコルネット、憑いてます。』(小学館)など、運動系から文化系まで様々な〈部活動〉をテーマにした作品を数多く放つ天沢夏月さん。高校陸上を題材に2021年に上梓した『ヨンケイ!!』(ポプラ社)が、このたび文庫化された。

 男子部員が三名しかいない、伊豆大島の渚台高校陸上部。そこへある冬の日、本土からの転校生が新入部員として加わる。「リレーをやってみませんか」という顧問の佐藤先生ことサトセンの勧めで、五月に開催される都大会に出場すべく“ヨンケイ”の練習をはじめるが…。

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 “ヨンケイ”で大切なのは、バトンの受け渡しだ。前の走者と続く走者の走りのリズムが最高潮に合致する瞬間にバトンを渡すのが理想とされているが、それには走者間のコミュニケーションが欠かせない。つまり信頼関係が。それがこのチームには決定的に足りていない。

 第一走者の受川は、陸上部内で語り継がれる存在である名ランナーの兄にコンプレックスを抱いている。第二走者の雨夜は、ひそかに退部も考えているほど、ただいま絶賛スランプ中。陸上の名門校を脱落し、逃げる思いで転校してきた第三走者の脊尾。アンカーとなる第四走者で部長の朝月は、走ることへの思いは強いものの、やる気のないメンバーにフラストレーションが溜まる一方。

 各々の実力はけっして低くはない。しかし互いに互いを思いやれないために、バトンパスがうまくいかない。

 第一章は受川、第二章は雨夜という具合に、四人がそれぞれの視点、それぞれの語り口から物語をつないでいく構成をとっている。それもまたリレーを思わせる。同じ出来事を描いていながら、語り手がちがうと見える景色は異なってくる。その差異の重なりあいが綾なグラデーションとなり、ページが進むにつれてテーマが浮き上がってくる。

 自身もかつて陸上選手だったサトセンは言う。

「いいバトンをしようと思ったら、相手のことを知るしかなかった」

 相手を知ろうとすることは、すなわち自分を知ることでもある。四人は衝突や仲たがいをしながらも少しずつ相手の走りの美質を知り、同時に自分の走りに足りないものに気づいていく。きっとここに――陸上という基本的には個人競技であるスポーツにおいて、団体種目であるリレーを題材にしているところに――意味があるのだと思う。

〈部活動〉を通して少年少女が成長する姿を描くのは、この作者の得意とするところ。その本領は本作でも大いに発揮されている。

 クライマックスとなる都大会で、四人の心がひとつになる瞬間は感動的だ。走るという行為の昂揚感と共に、バトンに込めた信頼感が行間からあふれてくる。

『一瞬の風になれ』(講談社)や『あと少し、もう少し』(新潮社)の系譜に連なる、青春陸上小説の新たな名作となるだろう。

文=皆川ちか