もしも突然余命宣告されたら――? 余命1年の男子高校生と余命半年の女子高校生の、切ない期限付きの恋物語

マンガ

公開日:2023/8/10

余命一年と宣告された僕が、余命半年の君と出会った話
余命一年と宣告された僕が、余命半年の君と出会った話』(沖野れん:漫画、森田碧:原作/KADOKAWA)
余命一年と宣告された僕が、余命半年の君と出会った話
余命一年と宣告された僕が、余命半年の君と出会った話』(森田碧/ポプラ社)

 人はいつか死ぬ。でも、自分や家族が死ぬのは今じゃない。多くの人が「余命」というものをどこか他人事として捉えがちだ。でも人は誰でもいつ死ぬか分からない。急に体調を崩し、病院に行ってそのまま入院、気づいたときには余命○年、ということも、悲しいことだが起こりうることだ。

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余命一年と宣告された僕が、余命半年の君と出会った話』(沖野れん:漫画、森田碧:原作/KADOKAWA)は、病魔に冒され、ある日突然余命を宣告された高校生の物語。ポプラ文庫ピュアフル刊行の同名の小説が原作となっている。森田碧氏のデビュー作で、2023年8月8日にはコミカライズ版も発売された。

 主人公は、ある日突然倒れ、病院で余命宣告を受けた高校1年生の早坂秋人。心臓に腫瘍があり、進行具合や腫瘍の位置から切除できないため、あと1年ほどしか生きられないと告げられたのだ。

余命一年と宣告された僕が、余命半年の君と出会った話

 それまで秋人は、死を意識するなんて数十年先だと思っている普通の高校生だった。だがこの余命宣告によって、自分には未来がなく、高校すら卒業できない運命なのだと知ってしまう。ここから秋人は無気力になり、何気ない日常を幸せそうに過ごしている人たちを恨みながら投げやりな日々を送っていた。

余命一年と宣告された僕が、余命半年の君と出会った話

 だが、そんな秋人にも唯一没頭できることがあった。絵を描くことだ。彼は暇さえあれば絵を描き、それに熱中することでつらい現実を考えないようにしていた。そんな中、通院先の病院に入院している桜井春奈との運命的な出会いを果たす。病院の談話室で絵を描く姿が印象的な春奈は、なんと余命半年だったのだ。彼女は話しかけてきた秋人に対し、冷静に「私もうすぐ死ぬの」と告げる。ここから、秋人と春奈の「期限付き」の関係が始まっていく――。

余命一年と宣告された僕が、余命半年の君と出会った話

「余命」が関わってくる恋物語は多くあるが、本作の大きな特徴は、ヒロインだけでなく主人公も余命を抱えているという点。逃れられないタイムリミットが迫る中で、それぞれの形で「今」への執着を失いかけていたふたりだが、出会ったことで互いの日常が大きく変わっていく。春奈は秋人の来院を心待ちにすることで、秋人は春奈のために時間を使うことで、生きる意味と拠り所を得たのだ。

余命一年と宣告された僕が、余命半年の君と出会った話

 秋人は、「普通の高校生でいたい」という思いから、余命を春奈に明かさず接し続ける。これがよかったのか悪かったのかは、同じ境遇にない筆者には計り知れない。しかし、明かさない選択をしたからこそ、春奈は出会ったばかりの自分に時間が割かれることを受け入れられたのではないか、とも感じた。もし秋人も余命宣告を受けている、と最初から知っていたら、優しい春奈は引け目を感じてしまったかもしれない。

 また、秋人と春奈の関係だけではなく、それぞれの友人との関係がしっかり描かれるのも本作の魅力だ。春奈と秋人は、一見全く違う性格のように思えるが、実は大きな共通点もいくつかある。その一つが、どちらも大切な友人に余命宣告を伏せ、遠ざけるような真似をしてしまったということ。

 それぞれの複雑な心境が空回りし、遠ざけながらも気にせずにはいられない絶妙な距離感が生々しく、身を引き裂かれる思いがした。秋人と春奈の関係はもちろんだが、ぜひ友人たちとのやり取りにも注目してほしい。

余命一年と宣告された僕が、余命半年の君と出会った話

 こうしてふたりがもがきながら生を噛みしめている間にも、病魔は確実にふたりの体をむしばんでいく。そして1巻ラストでは、秋人の体に変化が――。何気ない日常と相反する抗えない現実に、読んでいて涙が止まらなくなった。これからふたりはどうなっていくのか。何を思い、何を考えて生きていくのか。最後まで見守ってほしい。

文=月乃雫

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