「池袋ウエストゲートパーク」シリーズ第19弾! 宗教2世、闇バイト…現代日本のタイムリーなテーマでゾクゾクが止まらない!

文芸・カルチャー

公開日:2023/9/11

神の呪われた子 池袋ウエストゲートパークXIX
神の呪われた子 池袋ウエストゲートパークXIX』(石田衣良/文藝春秋)

 東京・池袋というと、あなたは何を思い浮かべるだろうか? 先日、ストを決行した西武百貨店本店か、はたまた水族館もあるサンシャインシティか……もしかすると池袋に土地勘がなくても全国的に知られているのは「池袋ウエストゲートパーク(IWGP)」かもしれない。

「池袋ウエストゲートパーク」とは石田衣良氏のデビュー作でもある短編連作シリーズ。テレビドラマやアニメにもなった大人気シリーズなのでご存じの方も多いだろう。1997年秋に本シリーズの第1作『池袋ウエストゲートパーク』で石田さんはオール讀物推理小説新人賞を受賞し、作家デビュー(書籍は翌年秋に刊行された)。以来、現在にいたるまでシリーズを書き続けており、このほど第19弾となる『神の呪われた子 池袋ウエストゲートパークXIX』(文藝春秋)が発売に。

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 主人公は物語の語り部でもある真島誠(マコト)。池袋西口公園近くの果物屋の息子として店番をつとめるが、実は“池袋のトラブルシューター”の顔を持つ。物語の基本はそんなマコトが友人のタカシ(安藤崇:池袋のGボーイズのキング)らの助けを借りながら、住民の幸福と秩序の維持のため依頼された難事件を解決していくというもの。中でも本シリーズの面白さは、マコトが解決していく事件が「現在、まさに社会で起きていること」であるというスピード感だろう。たとえば新刊の表題作「神の呪われた子」では、「宗教2世」がテーマになっている。

 梅雨の終わりの雨の日、マコトが果物屋の店番をしているところに新興宗教「天国の木」の信者という母娘が布教活動にやってくる。熱心に布教する母、その後ろにいる娘・ルカは静かに母に従うようでいて、実は心の底で抵抗しているのをマコトは見逃さなかった。翌日、駅前でひとり布教のパンフレットを配るルカに気が付いたマコトが声をかけると、彼女は目の前で失神してしまう。どうやらルカの母は宗教にのめりこみ、ろくな食事もさせてもらえないルカは療育放棄の状態にあるらしい。マコトは近くの子ども食堂にルカをつれていくと、自身も宗教2世だったという主催者・アズの助けもあってルカに明るさが戻ってくる。だが数日後、子ども食堂に来ていたルカは「天国の木」のメンバーに、教祖の花嫁候補ということで無理やり連れ去られてしまう。さらに教団はマコトたちに悪質な嫌がらせを仕掛けてくるようになり、マコトはタカシと共にGボーイズを動員し、ルカを救い教団をたたく計画を練るが――。

 本書にはこのほか、現在、投機目的で高騰している「ビンテージ・ウイスキー」をめぐる攻防を描いた「大塚ウヰスキーバブル」、アイドルの私生活まで侵害する過激な推し活をめぐる「〈私生〉流出」、闇バイトの連続強盗団と対峙する「フェイスタトゥーの男」を収録。たった今、ニュースで見たばかりのようなホットなテーマが連続し、現実と地続きのようなリアリティがたまらない。さらにはおなじみのマコトやタカシの活躍も痛快で、シリーズを読み続けている方はもちろん、本作が初めてという方もきっとハマることだろう。

 それにしても、あまりにも現実との時間差がないので、「こんなに今の〈日本〉ってヤバいのか!?」と、ちょっと足元がグラつくようなゾクゾクするような……。こんなとき、マコトのような頼れるヤツがいてくれたら安心なのに。そう思うのは、きっと私だけではないはずだ。

文=荒井理恵

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