安藤サクラ、山田涼介で映画化「BAD LANDS バッド・ランズ」。原作『勁草』はオレオレ詐欺がテーマのノンストップ小説

文芸・カルチャー

更新日:2023/10/5

勁草
勁草』(黒川博行/徳間書店)

 安藤サクラ主演、Hey! Say! JUMPの山田涼介が共演。『わが母の記』『ヘルドッグス』など多くの作品で知られる原田眞人氏が監督を務める映画『BAD LANDS バッド・ランズ』。この座組みを聞いただけでも期待が高まる作品ですが、原作は直木賞作家である黒川博行氏の、彼自身が得意とする大阪を舞台としたノワールサスペンス『勁草』(黒川博行/徳間書店)。臨場感のある描写とスピード感のある展開で、映像化にもかなり期待が持てる本作を紹介します。

 主人公は橋岡恒彦(映画では女性に変わっており、安藤が演じる)。電話詐欺の標的リストを作る裏稼業・通称名簿屋の高城に雇われて、ターゲットの下見やオレオレ詐欺の受け子の差配などをしています。オレオレ詐欺が上手くいっても、大半の金は高城に。末端になればなるほど実入りが少ない仕組みになっているため、橋岡は高城に不満を持ちながらも仕事を続けています。山田演じる矢代は橋岡とともに下見などをする、同僚のような人物。橋岡も矢代も前科持ちですが、矢代は橋岡の上をいく倫理観のゆるさが描写されています。

 橋岡と矢代ら犯罪を行う側と、彼らを追う側の刑事・佐竹と湯川。双方の視点が交差して描かれるのが本作。まずオレオレ詐欺の現場から物語はスタートします。本作によるとオレオレ詐欺の場合、被害者がお金を下ろした後、何度か場所を移動させて警察の尾行がついていないか確認するそう。場所を変え、周囲の様子に目を光らせながら被害者を監視する橋岡。その臨場感のある描写に、すぐに作品の世界に引き込まれます。大阪の見知った町の名前が飛び交うので、大阪の地理がわかればさらにイメージしやすいでしょう。

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 事件後、橋岡の存在からその先にいる高城まで突き止める佐竹と湯川。いろいろな場所に足を運び、関西人らしいやりとりで橋岡たちに迫っていく様子は警察小説の醍醐味。展開も早いので、ページをめくる手が止まりません。

 ついに橋岡たちの居場所まで特定され、次に行動を起こしたら逮捕されそう……となりますが、ここで終わらないのが本作。橋岡は矢代に誘われて“賽本引き”というさいころを使った賭博を行う賭博場へ。決まった日しか開いておらず、客はタマリと呼ばれるいくつかの集合場所から車に乗せられて集まるといういかにも怪しげなその賭博場で、矢代は大きく負けてしまいます。そんな賭博場を仕切っているのがまともな集団のわけがなく、賭博場での借金は十日で一割、いわゆる“トイチ”だったのです。なんとか金を集めようとする矢代とそれに付き合わされる橋岡は、とある事件を起こしてしまいます。

 どんどん窮地に陥っても、主に橋岡の勘と機転でその場を潜り抜けるふたり。それを追いかけていく佐竹と湯川。どちらのバディにも人間味と愛嬌のようなものがあり、橋岡たちが佐竹たちに捕まってほしいような、逃げ切ってほしいような……複雑な感情を持ってしまいます。500ページ超という決して短くはない本作ですが、それを一気に読み進めてしまうのは展開の早さと登場人物たちの会話のテンポの良さがあるから。結末も読めないので、続きが気になっていつの間にか読み終わっている。読書好きにはたまらない経験です。

 映画に登場する俳優のファンの方にも、警察小説が好きな人にも、自信をもっておススメできる一冊です。

文=原智香

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