旧統一教会の解散命令請求が正式決定。安倍晋三元首相銃撃事件によって明るみに出た宗教2世問題、我々は知らんぷりをし続けてきた?

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更新日:2023/11/10

だから知ってほしい「宗教2世」問題
だから知ってほしい「宗教2世」問題』(塚田穂高、鈴木エイト、藤倉善郎:編著/筑摩書房)

 2022年に起きた安倍晋三元首相銃撃事件によって“クローズアップされた”と言われる宗教2世問題。しかしこの問題は突然出てきたわけではなく、これまで連綿と続いてきたことである。“表面化”と言いたくなるかもしれないが、それも違う。これまで私たちが「宗教は私には関係ない」「家族内で解決すべき問題」と見ないふり、知らんぷりをしていただけに過ぎないからだ。

 宗教1世と呼ばれる人たちは自分が生きていく上で抱えた悩みに対する答えを模索し、考え、多くの選択肢の中から選んだ宗教に入信し、信仰している。しかしその人を親に持つ子は、自分の考えや選択(往々にして判断力のない幼い時期に入信させられてしまう)ではなく、その宗教を信仰する親の方針によって入信を決められ、宗教2世となってしまうのが実情だ。もちろんそれで幸せに暮らしている人も大勢いるだろうが、そうした人々は現在問題となっている宗教2世とは一旦切り離して考えないといけない。我々が問題について知り、考えなくてはいけないのは、親子関係と子育てに「特定の宗教の教義」が不可分な状態で膠着したまま育ってしまったことから来る罪悪感に苛まれ、切るに切れない親子関係や人間関係に苦しむ宗教2世の人たちのことだ。

 その宗教2世問題に深く斬り込む『だから知ってほしい「宗教2世」問題』(塚田穂高、鈴木エイト、藤倉善郎:編著/筑摩書房)は、ジャーナリストや弁護士、国会議員、研究者、臨床心理士、社会福祉士といった長年宗教問題を追い続け、関わってきた方たちに加え、宗教2世の当事者たちによる告白が収められた、総勢40名以上が寄稿した400ページを超える分厚い一冊である。帯には「なにも終わっていない!」と書かれている。そう、問題は依然として解決していないのだ。

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 本書を読み通すにはかなりの精神力がいることは最初にお伝えしておきたい。問題を追い続けてきた方たちによる文章は何がどう問題なのかを腑分けし、これまでの流れや宗教2世を巡る報道などについて整理し、現時点での解決法や必要となる支援などがまとめられているのだが、周囲の無関心とあまりに理不尽な仕打ちに怒りの感情を抱いてしまう箇所も多々あった。

 そして宗教2世の当事者たちによる生々しい告白である。家族という檻の中で逃げ場がなく、信仰をやめることは家族と居場所をなくすことと同じであり、決断して居場所を求め行く先を告げずに遠く離れたとしても、貧困や孤立に襲われたり、教団や家族に引き戻されたりしてしまうこともある。さらに教義を蔑ろにしてしまうことは親への裏切りではないかと悩み、マインドコントロールや虐待を受けたことによるフラッシュバックに苦しみ、恋をしたり結婚したりすることもためらってしまう。もちろん宗教によって濃淡があり、違いもあるが、剥がせば血が流れ出すような苦しみは、想像するだけで胸が苦しくなる。得てしてマスコミは宗教2世の問題に苦しむ方たちのことを「可哀想な人たち」や「そこから這い上がって逆転した人たち」という情動やカタルシスにフォーカスして取り上げようとするが、そうではない、声にならないような小さな声を聞くこと、知ることが肝要であることは、本書をご一読いただければわかるはずだ。さらに本書は新興宗教に関することだけでなく、既成宗教の信仰や2世問題、寺の後継者問題などについても言及されている。

 本書のタイトルにある「だから」という言葉には「先行の事柄の当然の結果として、後続の事柄が起こることを示す。理由を示す。であるから。それだから。だからして。」(『日本国語大辞典』より)という意味がある。もしかするとあなたの身近にいる人も心に秘めているだけで、宗教2世問題に苦しんでいるかもしれない。そのためには「だから」からさらに踏み込み、「どうか」宗教2世について知り、社会や政治に影響を及ぼす問題について何ができるか、「ぜひ」考えてみてほしい。

文=成田全(ナリタタモツ)

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