砂浜に死体を7体並べれば10億円ゲット。無人島に持っていった3つのアイテムでバトルロワイヤルを生き残れ!

文芸・カルチャー

PR公開日:2023/10/22

無人島ロワイヤル
無人島ロワイヤル』(秋吉理香子/双葉社)

「無人島に3つだけアイテムを持っていくとしたら?」。そう問われて、あなたならなにを思い浮かべるだろうか? 生命を維持するために食料はなくてはならないし、現地で調達するつもりなら釣り道具一式も捨てがたい。もちろん、食料を料理するためのライターやナイフも必須だろう。嗜好品としては、シュノーケルやウイスキーもいい。秋吉理香子氏の『無人島ロワイヤル』(双葉社)は実際に、そんな条件下で無人島生活を送った男女の話である。

 初夏、とあるバーでマスターと常連客がこの話題で盛り上がっていた。すると、マスターが「俺、無人島持ってるよ」と唐突に呟く。話はとんとん拍子に進み、常連8名がマスターのクルーザーで同地に赴くことに。それも、先述のアイテム3つを懐中して、である。ところが到着した日の翌朝、マスターの姿がない。皆が乗って帰るはずだったクルーザーも消えている。

 マスターが残した動画によると、この状況でのバトルロワイヤルで誰が生き残るか、島の外から高みの見物をするらしい。砂浜に7人の死体を並べたのを衛星写真で確認できたら、サヴァイブした者に10億円を与えるという。救助に訪れるミニボートはふたり乗りだから、賞金は半分になるが、ふたりで協力してもいいそうだ。

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 酒や食料から釣り竿、双眼鏡、ビデオカメラ、ポケットバイクなど、皆、異なるものを持ち寄る。これらのアイテムは物語の伏線の役割を果たしており、後に話の行く末を大きく左右する。参加したのは、医者、ユーチューバー、塾講師など、常連客の職業は様々で、個々のキャラも立っている。特に、結婚を控えた莉々子と修一のカップル。冴えないサラリーマンの修一は、金目当てで莉々子と結婚。いわゆる、逆玉の輿である。

 その莉々子はアイテムに、ウエディングドレスやティアラを持っていこうかなあ、と大はしゃぎ。当日になるとハイヒールやコスメパレットを持ってくる。どう考えてもこの状況で浮いており、場違いの言動で周囲を呆れさせる莉々子。だが、物語の鍵を握るのは実は彼女だったりする。天然で能天気に見える彼女は……。いや、ここは伏せておこう。

 最大の問題人物が、早くから暴力衝動を剥きだしにするある人物。迷彩服に身を包んだ彼は、唯一、この状況を心底楽しんでいる。以前から銃を人に向けて撃ちまくりたいという衝動を持っていた彼は、映画「ランボー」の主人公にでもなったように見える。むろん、彼以外にも殺人に走る人物もいる。なにかきっかけがあれば、立場は簡単に逆転し、8名は被害者にも加害者にもなるのだ。

 閉鎖された空間で殺人事件などが起きるような話を、ミステリでは「クローズドサークル」ものという。そのルーツはアガサ・クリスティの『そして誰もいなくなった』。年齢も仕事も異なる10名が、謎の人物に招かれてやってくるが、ひとり、またひとり死んでゆく。ミステリの重鎮・綾辻行人の『十角館の殺人』や、映画化もされた高見広春『バトル・ロワイアル』なども、この系譜を継いでいると言える。

 だからといって、本作がミステリの定型をなぞった作品ではないことは、読めばすぐに分かるはず。むしろ、その設定は非常に現代的で、既存のミステリにはない趣向が凝らしてある。例えば、ユーチューバーとしての配信をバズらせるために、由宇という若者はある思い切った行動に打って出る。あるいは、アイテム3つを持って集合する、というのも珍しい設定ではないか。もちろん、島での殺し合いに役立つ道具を持ってきたわけではない。当然だろう、そんな展開になるなんて誰も発想しなかったのだから。運も実力のうち、というべきか。

 それにしても、最後のどんでん返しにはおおいに感嘆させられた。本を読んでいて思わず、「えっ!?」と声をあげてしまったほどだ。島での人間関係を見ながら、読者は推理を巡らせるのだが、これがそうそう当たるとは思えない。読み終えた後も不思議な余韻が残るが、いわゆる「イヤミス」のような後味の悪さはない。それは、本作が狭義のミステリに収まらない人間ドラマとして成立しているからである。

文=土佐有明

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