頑張りすぎているあなたへ…“文学少女”シリーズの野村美月が紡ぐ、甘くて優しい物語『ものがたり洋菓子店 月と私』

文芸・カルチャー

公開日:2023/10/26

ものがたり洋菓子店 月と私
ものがたり洋菓子店 月と私』(野村美月/ポプラ社)

 どうしようもなく将来が不安、自分の気持ちに素直になれない、自分に自信が持てないetc…。そんな悩みを抱えている人にこそ、読んでもらいたい一冊がある。2023年10月4日(水)に発売され、早々に重版が決定した、ライトノベル作家・野村美月の連作短編集『ものがたり洋菓子店 月と私』だ。スイーツのように甘くて優しい物語が、疲れた心にじんわり沁みわたるだろう。

 著者の野村は、『卓球場』シリーズの第1作目『赤城山卓球場に歌声は響く』で作家デビュー。2001年の「ファミ通エンタテインメント大賞(現:エンターブレイン えんため大賞)」で小説部門最優秀賞に輝き、その後も“文学少女”シリーズで「このライトノベルがすごい! 2009」作品ランキング1位を獲得するなど、数々の功績を残している。

 そんな同氏が手がけた『ものがたり洋菓子店 月と私』は、ある住宅街の洋菓子店「月と私」で巻き起こるストーリー。店内にはまるで美術品のようなスイーツと腕利きのシェフ、そして商品の魅力的なエッセンスを引き出し、物語としてお客さまに届ける“ストーリーテラー”がいた。

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 あまり聞き慣れない肩書きだが、簡単に言うと商品の説明や、それにまつわる物語を伝えてくれる語り手のこと。“語部九十九”と名乗るストーリーテラーは執事風の燕尾服に身を包み、ショーケースに並ぶスイーツからオススメの1品を紹介する。

 彼は「これは、私が月から聞いたお話です」という決まり文句からスイーツにまつわるエピソードを語るのだが、どの話も不思議と登場人物たちが抱えている悩みと関連づいていた。

 たとえば第1話に登場する岡野七子は、仕事に愛着もやりがいも持てないという悩みを抱えた30代の女性。鬱屈とした人生を送り続けていたある週末の金曜日に「月と私」と巡り合い、そこでストーリーテラーから「満月のウイークエンド」というスイーツを勧められる。そして“ある物語”を聞かされるのだが――。

 同作のポイントとなっているのは、この九十九が語るストーリー。いずれも相手の人生をずっと見守っていたかのような内容となっており、登場人物のみならず読者もハッとさせられる部分がある。

 また、そんな物語やスイーツの魅力を綴る野村の卓越した表現力も必見だ。「バターがじゅんわり、パリパリキャラメリゼのクイニーアマン」「ほろほろ甘ぁい三日月のバニラキプフェル」など、目次からすでに美味しそうなスイーツ名が並んでおり、物語を読み終える頃にはきっとスイーツが食べたくて仕方がなくなるだろう。

 なお同作は、2020年12月に発売された『ストーリーテラーのいる洋菓子店 月と私と甘い寓話』を改題し、おまけの「令二の日記」を収録した文庫版。一新した表紙に惹かれて今回初めて手に取った人も多いようで、SNS上には「瑞々しい筆力で描かれるスイーツがそれはもう美味しそうで…。読みながら口の中がヨダレでいっぱいでした(笑)」「野村さんの作品は温かみがあって、読んでいると幸せをお裾分けしてもらっている気持ちになる」「ケーキの魅力を舌だけでなく心にまで届けてくれるお店。出会うべくして出会った人たちの心温まる物語だった」「初めましての作家さんだったけど凄く良かった! ぜひシリーズ化してほしい」といった絶賛の声が相次いでいる。

 ちなみにカバーイラストを担当したのは、人と食のイラストを得意とするイラストレーターのomiso。過去には「カルピス」と「AfternoonTea」によるロゴバッグのアートを手がけたこともある。

 ついつい頑張りすぎて息詰まってしまった人にこそ、『ものがたり洋菓子店 月と私』は心に響くはず。お好みのスイーツと一緒に、甘くて優しい物語を楽しんでみてはいかがだろうか?

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