お弁当を食べた夫から「ごちそうさま」メール。デビュー20周年のたかぎなおこ氏に学ぶ、お弁当を通して家族円満になる秘訣

暮らし

更新日:2023/12/12

お弁当デイズ
お弁当デイズ 夫と娘とときどき自分弁当』(たかぎなおこ/文藝春秋)

「子どもの頃、どんなお弁当を食べてたっけ?」

お弁当デイズ 夫と娘とときどき自分弁当』(たかぎなおこ/文藝春秋)の冒頭、作者のたかぎなおこ氏が幼稚園生時代に食べていたお弁当のことを思い出す場面があり、ふとそう思った。作者によると、幼稚園で毎日何をしていたかはよく覚えていないが、お昼に食べた、母親の作ったお弁当の記憶は鮮明に残っているそうだ。私はと言えば小学生の頃に食べたお弁当の中身もよく覚えていない。お弁当についての最初の記憶は、年の離れた妹の運動会を見に行ったとき、家族みんなで食べたお弁当だ。特におにぎりや卵焼きがおいしくて、その味は今も覚えている。お弁当に対する最初の記憶が人によって異なることに驚きつつ読み進めると、本書はお弁当を介して作者の人生を描いたコミックエッセイだということに気づいた。幼少期に強く印象に残ったお弁当は、今の作者の人生や性格をも映し出すのだ。

 ここで作者のたかぎなおこ氏について触れたい。彼女のコミックエッセイで特に有名なのは、ひとり暮らしをしていた長い月日を描いた『ひとりぐらしも5年め』ではないだろうか。これは一冊では終わらず、ひとりぐらしシリーズとして好評を博した。その後も、運動が苦手なたかぎさんがマラソンにチャレンジする『マラソン1年生』や、シニアと呼ばれる年齢になった両親を、さまざまな方法で喜ばせようと奮闘する『親も年とってまいりましたコミックエッセイ 親孝行できるかな?』、結婚や出産といった人生の転換点を迎えたたかぎさんの、家族との日常を描いた『お互い40代婚』などを発表し、2023年でデビューから20年が経ったことになる。ほのぼのとした作風なので気づきにくいかもしれないが、読者の中にはたかぎさんの人生が変わっていくのをリアルタイムで見ている気持ちになった人も多いのではないだろうか。

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※上記はすべてKADOKAWA発行。

『お弁当デイズ 夫と娘とときどき自分弁当』でも彼女の作風は変わらない。どのエピソードを読んでも、お弁当の中にある料理ひとつひとつにこめられている作者のやさしさが伝わってくる。義母(夫の母親)と二世帯同居を始めたエピソードでは、義母も含めた家族みんなで買い出しに行って食材を多めに買うようになった作者が、豚バラ肉や塩鮭を冷凍保存してストックする様子が描かれている。豚バラ肉や塩鮭に冷凍保存してストックする様子など、家族にまつわる話が、モノローグに登場する。これを読むと作者が円満な家庭を築けている秘訣がわかるだろう。

 食材の冷凍保存の際は「夫がせっせと(豚バラ肉や塩鮭を)小分けにしてくれて」、鮭を焼く際は「余分に焼いておいたりします それは娘の大好物が鮭だから」と、家族との繋がりが意識できるように描かれているのだ。作者の根本にあるのは、家族に対する感謝の気持ちや思いやり。作者の夫は昼休みにお弁当を食べていて、いつも「ごちそうさまメール」をくれるという。感謝の気持ちを伝えあうことが、家族間で大切にされていることがうかがえる。

 料理好きな人やお弁当作りに励んでいる人ならもちろん楽しめるコミックエッセイだ。しかしそれだけではない。私は料理が苦手で、人生でお弁当を作った回数はゼロに近いが本書を楽しく読むことができた。作者のやさしさがお弁当作りを通して伝わってきて、温かい気持ちになれたからだ。そんな家族関係を円満にする秘訣も本書には描かれているのではないだろうか。

文=若林理央

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