著者自身が主人公になって読者に挑戦状を突きつけるミステリ小説。案山子だらけの山奥の村で毒矢に撃ち抜かれた謎を解け!

文芸・カルチャー

PR公開日:2023/11/30

案山子の村の殺人
案山子の村の殺人』(楠谷佑/東京創元社)

 山奥にあるその村には、あちこちに案山子(かかし)が置かれていた。そのうちの一つに、毒矢が撃ち込まれ、また転落死した学生を悼むために置かれた案山子が突如として消失。やがてある人物が毒矢で貫かれて殺害される。誰の足跡もない、降り積もった雪のうえに倒れていたその人を、いったい誰が殺しえたというのか。村に潜むという違法ハンターの仕業か、それとも――。

 小説『案山子の村の殺人』(楠谷佑/東京創元社)は、タイトルも設定も“いかにも”なのが最高で、出だしからぞくぞくしてしまう。なんといっても、主人公は、高校時代にミステリ作家としてデビューした楠谷佑。本作の著者と同じ名前なのである。ラストで著者から「読者への挑戦状」が突きつけられるのを含めて、「そうだよ、これこそが推理小説だよ!」と読みながら興奮しっぱなしであった。

 本作に登場する楠本佑の中身は二人。同じ家に住む従兄弟で、同じ大学に通う「僕」こと理久(執筆担当)と真舟(プロット担当)だ。新作は土着信仰のある架空の山村を舞台にする予定なのだが、理久は生粋の都会っ子で田舎に行ったことがないし、真舟の地元は札幌で、東京ほどでなくともやはり都会。住んでいる人たちの暮らしにイメージがわかず、困っていたところに同級生の秀島が案山子の村、宵待村に招待してくれたのだった。

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 秀島の実家は、村で唯一の旅館。村で幅を利かせているのは蔵元・堂山一家。村にはもう一つの蔵元があったのだが、やむなく閉業に追い込まれたその家の息子・太一を、堂山の息子・純平は何かにつけて挑発する。さらに秀島の幼なじみ・初乃の足元をみて、強引な求婚をくりかえすいけすかない男である。さらに、死者の魂を導く案山子をつくったという女性や、オフシーズンの旅館に泊まる二組の女性一人客(そのうちの一人は行動がやや不自然)、秩父が地元だという全国的に有名なシンガーソングライターなど、何が起きてもおかしくなさそうなあやしい面々が続々と集結していく。

 この中の一人が殺されるのだが、それも含めて驚きを楽しんでほしいので、ここでは伏せておく(上記の人間関係から察するとは思うが……)。犯人が外からやってきた形跡も出ていった形跡もなく、雪のせいで到着できない警察のかわりに、理久と真舟はあれこれ推理を重ねるものの、これがなかなかうまくいかない。推理作家ならではの着眼点で違和感を捉え、手掛かりをつかむ一方、ミステリの王道が頭にインプットされすぎていて、かえって物事を複雑に捉えてしまうこともある。そうして、ハウダニット(殺害方法)もホワイダニット(動機)も見いだせないまま、さらなる悲劇が起きてしまう――。

 真相を導くヒントはすべて文中にある。はたして、読者のあなたはこの謎をとけるだろうか? 我こそはという人はぜひ、ご一読を。ちなみに私のように推理センスがまったくない人間も、いかにもな雰囲気と緻密に展開されていくストーリーだけで十分に楽しめるので、ご安心あれ。

文=立花もも

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