直木賞作家・今村翔吾が描く“明治時代のデスゲーム”がマンガ化! 292人の猛者が死闘を繰り広げながら東京を目指す歴史大作『イクサガミ』

マンガ

PR公開日:2023/12/25

イクサガミ
イクサガミ』(今村翔吾:原作、立沢克美:漫画/講談社)

 時は明治11(1878)年2月。「豊国新聞」という怪しげな新聞に、以下のような広告が打たれ、全国にばらまかれた。

武技ニ優レタル者。本年五月五日、午前零時。京都天龍寺境内ニ参集セヨ。金十万円ヲ得ル機会ヲ与フ。

 当時の10万円は「警察官2000年分の俸給」であり、現在の貨幣価値に換算するとおそらく数十億円というとんでもない金額だ。いったいどこの誰がどんな目的で腕に覚えがある人たちを集めるのか、なぜ金を与えるのか、しかも本当にそんな大金を持っているのか? しかしこの新聞は真偽や目的がはっきりしないまま、すぐに官憲に回収されてしまった。それでも。その3カ月後の真夜中、京都・嵐山にある天龍寺には刀や槍、弓などで武装した人たちが続々と集結していた。明治9(1876)年に廃刀令が布告され、一般人の帯刀が禁止されたにも関わらずだ。江戸時代に“人斬り”と恐れられた主人公・嵯峨愁二郎もそのうちのひとりだった。どうしても大金が必要となり、過去の思いを断ち切って神奈川から京都へとやって来たのだった……

 このストーリーは直木賞作家であり、大阪と佐賀で書店を経営する今村翔吾の小説『イクサガミ 天』『イクサガミ 地』(執筆はまだ続いており、小説は全3巻となる予定)冒頭の場面だ。この小説がコミカライズされ、漫画雑誌「モーニング」に現在連載中で、12月21日には待望の第3巻が発売される。

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 この物語が異様な雰囲気となるのは、「槐(えんじゅ)」という謎の人物によって催される、大金獲得のための「こどく」という遊びにある。今回「こどく」には292人の猛者たちが集まり、参加者の首には数字が書かれた木札がかけられた。そしてルールはこうだ。

(1)各自銘々に東京を目指すこと (2)その道程で伊勢・三河・遠江・駿河・相模・武蔵の7カ所を必ず通ること (3)それぞれの地を通過する際には所定の点数(東へ行くたびに必要な点数がアップする)を集めておく=参加者の木札(ひとり1点)を奪うこと (4)他言無用 (5)1ヶ月後の6月には東京にいること (6)途中離脱禁止(木札を自ら外したら失格) (7)以上のルールが守れない場合は相応の処罰が行われる=参加者の命はない

 つまり曲者ばかりの参加者同士が戦い、相手を戦闘不能状態にまで追い込む(ときにそれは死を意味する)ことが必要となってくるのだ。それにしても「こどく」とは一体なんだろう? 孤独、蠱毒、それともまったく新しい言葉なのか……? しかしそんな疑問を挟む余地もなく、参加者はいきなり始まったデスゲームで木札を巡って死闘を繰り返すことになる。巻き込まれた愁二郎は、天龍寺境内で参加者であるまだ幼い少女・香月双葉を救い、彼女を伴って京都から東京へと歩み出す。

 小説での描写を絵として描き出す立沢克美の漫画は、キャラクターの表情や動き、戦いでのダイナミックな身体的表現が楽しめる。そして原作者が解説する登場人物設定集(愁二郎が団子を好む、という漫画オリジナルの設定もあり)など、原作小説のファンも必読の内容が記載されているので、ぜひ漫画も手に取っていただきたい。

「こどく」に参加する愁二郎と双葉の運命、そして物語の行く末はどうなるのか、“イクサガミ”というタイトルはどこにかかってくるのか──未完の小説ともども、続刊を楽しみに待ちたい。

文=成田全(ナリタタモツ)

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