王子と奴隷少女の運命が大逆転! 王女と奴隷になった少年のすれ違いロマンス『緋色の枷のラーレ』

マンガ

PR更新日:2023/12/22

緋色の枷のラーレ
緋色の枷のラーレ』(みどり子/白泉社)

 身分差×愛憎劇のストーリーが大反響を呼んでいるみどり子氏の『緋色の枷のラーレ』(白泉社)。アラビア風の世界を舞台に、ドラマティックな展開と切ないすれ違いを描く注目作の第1巻がこのたび発売された。

 三日月国の王宮で下働きの奴隷として働く少女ラーレには、誰にも言えない秘密があった。それは、この国の王子ルスランへの恋。幼い頃に偶然出会ったふたりの間には身分を越えた友情が生まれ、成長した今も泉のほとりで密かに落ち合っては交流を続けているのだった。お互いを想いながらも、身分差ゆえに踏み出せずにいた王子と奴隷のもとに、ある夜、大きな転機が訪れる。ルスランの閨の練習相手としてラーレが選ばれたのだ。

緋色の枷のラーレ

緋色の枷のラーレ

 想いを打ち明けとうとう結ばれようとするふたりだったが、そんな幸せの最中、突然の悲劇が三日月国を襲う。ファルークという名の男が王宮へと攻め入り、王の首を刎ねて玉座を奪い取ったのだ。彼は15年前に三日月国に滅ぼされた隣国の元王子であり、生き別れとなった妹のラーレを取り戻しにきたという。兄を名乗る男にこれまでの暮らしのすべてを破壊され、王女として祭り上げられるラーレ。その一方で、ルスランは奴隷の身分に落とされてしまう――。

advertisement
緋色の枷のラーレ

 心の清らかな奴隷の少女と優しい王子の密やかな関係を描いた第1話は、身分違いのスパイスを効かせた甘い恋愛物語のはじまりを予感させる。ところが、物語は急展開を見せ、恋愛ものには似つかわしくない血に塗れた死体が背景に溢れ返ることになるのだ。死体を目にしたラーレの驚愕は、ページを捲った読者の感情とも重なっている。

 衝撃的に終わった第1話以降、期せずして王女となったラーレの孤独な戦いが始まる。兄を自称するファルークは、たった一人の妹であるラーレに対して強い執着を露わにするものの、その言動は酷薄だ。冷たい笑みを浮かべながら奴隷となったルスランの生命を質にして、ラーレを自分の支配下に置こうとする。ラーレは大切なルスランの身を守るため、本心を押し殺してファルークの言葉に従うしかなかった。

緋色の枷のラーレ

 奴隷として生きていた頃のラーレにとって、心だけは他の誰でもない自分自身の財産だった。王宮内を差配する宦官長から辛く当たられても、一向にめげたりはしなかった。王女として暮らす現在の日々を、ラーレは「今までで一番惨め」だと顔を歪めて悔しがる。奴隷の時でさえ自分自身のものだった心の自由が、ファルークの支配下では取り上げられてしまっているからだ。王女という身分よりも、心の有り様に価値を置く。ラーレというヒロインの、気高い強さがここにある。

『緋色の枷のラーレ』には、いくつもの逆転が含まれている。奴隷が王女となり、王子が奴隷となる。かつて隣国を侵略した王が、亡国の王子に首を刎ねられる。身分も立場も愛憎も、契機があればくるりと逆転してしまう。この物語のジャンルさえ、甘いラブストーリーから過酷なサスペンスに逆転する。しかし、ルスランに対するラーレの想いだけは、何が起ころうとも変わらないのだ。一人の少女を軸に、その周囲を様々な人々の事情と思惑が風車のように回っている。ラーレがその真っ直ぐな想いを失わなければ、きっとまた逆転の機会が巡ってくるだろう。風車が回るためには風が必要だ。単行本を手に取って、ラーレに応援の風を送ってほしい。

文=嵯峨景子

あわせて読みたい