人類初の花粉症患者が記録されていた! 花粉への憎さがちょっとやわらぐ? 花粉症の人類史

文芸・カルチャー

公開日:2024/3/23

花粉症と人類
花粉症と人類』(小塩海平/岩波書店)

 執拗なまでのモーニングアタック。絶えず目がかゆく、鼻水はズルズル、ここぞとばかり出るクシャミ……と、春頃はスギ花粉症患者にとって試練の季節だ。本稿筆者も、まさにその一人。今こうして原稿を書きながらも“いっそ目ん玉を取り出してやろうか”と思うほどの目のかゆみ、とどまることを知らない鼻水と戦っている。

 花粉症といえば、現代病のイメージもある。しかし、どうやらそうではないようだ。書籍『花粉症と人類』(小塩海平/岩波書店)は、古くはネアンデルタール人からの人類史上で、私たちがいかにして花粉症と向き合い、戦ってきたのかをまとめた一冊。著者いわく「愛をもって」綴った本書を読むと、花粉への憎さがほんのりやわらぐ……かも知れない。

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裸子植物誕生、花粉で地球上を席巻

 地球の誕生は、46億年前といわれる。考古学によると、花粉が生まれたのは大型恐竜が地上を闊歩していたジュラ紀までさかのぼるという。

 花粉が生まれるまで、地球上では石炭の原材料となった、胞子によって繁殖するシダの仲間が地上を席巻していた。しかし、シダ植物には水辺を離れられない宿命がある。やがて裸子植物が誕生すると、植物は花粉により、はるか離れた場所に位置する乾燥した大陸内部にまで進出しはじめた。

 生き残り、繁栄するべく、ときに数百キロも移動できるほどの力を得た植物。そう捉えると、花粉にもロマンを感じられるのは不思議だ。儚い生涯で花を咲かせ、実を結ぶ植物から学ぶべき大事な教訓があるという著者・小塩海平氏の主張にも、うなずいてしまう。

人類初の花粉症患者? 激しい咳で歯が飛び出す

 人類史で最初の花粉症患者は誰か。かつて、メキシコの免疫学者が文献で言及していたとは驚きだ。本書によると、その人物とは古代ギリシャで民衆に暴君として恐れられた独裁的な支配者アテネのヒッピアスだったという。

 花粉症を発症した当時、ヒッピアスは70歳前後だった。軍の用務に勤しんでいたところ、突然猛烈なくしゃみと咳の発作に襲われるはめに。高齢だったため歯がゆるんでガタガタで、激しく咳をした勢いで一本の歯が抜け、口外に飛び出してしまったという、“コントかよ!”とツッコミたくなるほど、衝撃的な瞬間までも記録されていたようだ。

 彼が花粉症“らしき”症状を発症したのは8月後半から9月前半にあたるとされていたため、先の免疫学者は原因をヒマワリの花粉だと推定。しかし、小塩氏は因果関係は少し不明瞭で推測の域を出ないと付け加える。

 花粉症患者であれば、誰しも一度は「この世に花粉症さえなければ」と思ったことはあるはず。人類最大の“敵”といっても過言ではないが、かつて原因究明に挑んだ人びとの努力をたどると、花粉症そのものの見え方も少しばかりは変わってくるはずだ。

文=カネコシュウヘイ

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