鈴木おさむ氏が1本のTV番組でもらったギャラの最高額は1000万。32年間携わった大好きなTVについて語る『最後のテレビ論』

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PR公開日:2024/4/20

最後のテレビ論
最後のテレビ論』(鈴木おさむ/文藝春秋)

 4月5日放送の『JUMP UP MELODIES』(TOKYO FM)の冒頭でパーソナリティを務める鈴木おさむ氏は、自身の肩書きを「“元”放送作家」「普通のおじさん」と紹介した。昨年10月に32年間携わってきた放送作家業、脚本家業を辞めると発表。3月31日をもって、それら一切の仕事から退いた。だから、“普通のおじさん”になったのだ。

 そんな鈴木氏が上梓した『最後のテレビ論』(鈴木おさむ氏/文藝春秋)では、「テレビのことや裏側をいろいろ語ることはしてきませんでした」という鈴木氏が、そのタイトル通り、“最後”だからこそ明かせるテレビ業界、芸能界での体験の数々を記している。

「はじめに」の章では、自身が長年構成を手掛けた番組『SMAP×SMAP』で放送されたSMAPメンバーの謝罪会見を基にした小説「20160118」を発表した際、所属事務所をクビになる寸前にまでなったことを告白し、驚かされたし、同じく『SMAP×SMAP』に緒形拳がゲスト出演した際に、木村拓哉、草彅剛とゲーム対決をしたときに目撃した“事件”がまたびっくりだ。

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 大物俳優の出演に緊張が張り詰める中での収録だったが、なぜか緒形が突然、木村に強烈なビンタを浴びせるという事件が発生。スタジオ中が凍りついた。鈴木氏は、「木村拓哉と向き合うことで緒形拳のスイッチが入ったのは間違いない」と書く。木村はつねに現場で逃げずに戦うからこそ、彼と本気で仕事をした人にもその緊張感が伝わるのだろう。

 また、自身が脚本を手掛けた映画『ハンサム★スーツ』に出演してもらうため、女優の沢尻エリカに会いに行ったときのこと。事前に出演OKをもらっていたのにもかかわらず、彼女の中で作品との間に“ズレ”が生じたといい、撮影直前に断られてしまう。あとで分かったことだが、実は沢尻と会ったのが、あの有名な「別に…」事件の当日だったという顛末(てんまつ)で…。

 ほかにも、天才ともクレイジーとも言える非凡な才能を持つテレビマンたちとの出会いなど、自身が体験したエピソードが臨場感をもって存分に語られていく。

 テレビ業界のギャランティー事情についても興味深い。1990年代には1時間番組のMCのギャラが100万、200万のタレントも珍しくなかったが、現在では50万円以下の人がMCに選ばれることが多くなってきたそう。放送作家だと、1990年代はゴールデン1時間番組で10万、30万の人も多かったが、現在では23時台で1本1万円という場合もあるという。鈴木氏が1本の番組でもらった最高額はフジテレビの『FNS27時間テレビ』で1000万だといい、さまざまな事情もあり特例だったそうだが、今から見ると桁違いだ。

 そんなテレビ業界や芸能界の裏側についての話に、野次馬根性も手伝って引き込まれていくのだが、そこには“暴露”などという嫌な感じはない。全編を通して、鈴木氏が時に悩み苦しみながらも、テレビを愛して、放送作家・脚本家として走り続けてきたのが伝わってくるからだ。経験したトラブルもひっくるめて、楽しんでいたのだと思う。ちなみに、鈴木氏がどう仕事に取り組んできたのかは、『仕事の辞め方』(幻冬舎)でも詳しく語られている。

 本書の最後は、これからのテレビへの提言と同時に、以下のように締めくくられている。「テレビ、変わることをおそれずに。テレビ、ありがとう。テレビ、大好きです。テレビ、愛してます。さようなら」。鈴木氏の32年間の思いが凝縮されていて、思わずほろりとさせられた。

文=堀タツヤ

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