つらいことや悲しいことのあったとき美しくリリカルな森雅之の作品を読もう

公開日:2013/10/4

惑星物語

ハード : PC/iPhone/iPad/WindowsPhone/Android 発売元 :
ジャンル:コミック 購入元:eBookJapan
著者名:森雅之 価格:540円

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つらいことや悲しいことがあって、気持ちがくぃーんと落ち込んだとき。さあどうするかですよね。

よくこういうことを言います。パアッと遊んで発散しちゃいなさい。楽しいことを思い切りやって忘れちゃいなさい。

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だからこれは、ま、派手に踊ったりとかですね、カラオケで歌い倒したりとかですね、競馬で一財産すったりとかですね、それはまずいけど、でもおおむねそういった元気で賑やかな方向に自分を沈めてしまえというアドバイスであります。3日寝ないで詰め将棋をやれなんて話はあんまり聞きません。

しかし、わたしは反対なのです、そうやってことさらに元気で明るい渦の中に悲しみを忘れようとするのは。対処療法であるにせよ、根本治療ではない気がするからです。悲しみはいつか別の形を取って必ず再発症することでしょう。魂の根っこまで降りて破れた箇所をしなやかに修復してくれるのはもっと別のものだと思われます。

悲しいときは暗く悲しい音楽を聴け、というのがわたしの意見です。バーバーやマーラーのアダージョでもいいです。中島みゆきの「うらみます」系の曲でもけっこうです。映画だったら『マイ・ライフ・アズ・ア・ドッグ』なんかもかなりおすすめです。

暗く悲しく静かな作品は悲しみを吹き飛ばすのではなく、くるんで、魂の中に、体験として息吹を与えます。悲しみを豊かにするといってもいいかもしれません。

森雅之の作品の大きな特徴は「静けさ」であります。

リリカルな物語の後ろ側には、美しいほどの静けさが流れているのです。

太陽系の惑星から主人公のもとに子供が遊びにきて、些細だけれどファンタスティックな話を交わして帰って行く。3、4ページほどのショートストーリーの連作である本書もその例外ではありません。

ひとつは、宇宙という無音の世界を持ち込んでいるせいもあるはずです。また、整然と並んだコマ割りが、静止したような視覚効果を与えるからでもあるでしょう。

全ページカラーの『惑星物語』は、センスのいい、また端麗な色使いから、絵本のような美しい悲しさを漂わせます。ひとしきり子供と会話を交わしたあと、語り手はひとり眠るのですが、その1コマからしみ出す孤独の切なさも読み手を魅了する。

淋しさや哀しさに襲われたとき、森雅之を読むのがわたしの習慣となっています。


夜の色が淋しい

整然としたコマ割りが静けさを感じさせる

ファンタスティックな物語が読み手を魅了する(C)森雅之